メモ

給付金の支給は貧困に苦しむ人にいい影響を与えられるのか?

By epSos .de

日本には国や自治体が経済的に困窮する国民に対して、健康で文化的な最低限度の生活を保障するために保護費を支給する「生活保護」という制度があります。アメリカには日本の生活保護に相当する「TANF」というシステムがあり、就職しているのが受給要件となっています。では、国から給料以外の保護費を受け取って生活を行った場合、受給者およびその家族にどのような影響が出るのか、アメリカのある地域を対象に調査が行われ、その結果が公表されています。

JAMA Network | JAMA | Relationships Between Poverty and Psychopathology: ?A Natural Experiment
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=197482

Association of family income supplements in adolescence... [JAMA. 2010] - PubMed - NCBI
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20483972

What Happens When the Poor Receive a Stipend? - NYTimes.com
http://opinionator.blogs.nytimes.com/2014/01/18/what-happens-when-the-poor-receive-a-stipend/

1996年、ノースカロライナ州グレートスモーキー山脈付近に住む東部チェロキー族インディアンと呼ばれるアメリカの先住民族がカジノをオープン、カジノの利益の一部は東部チェロキー族インディアン約8000人の間で均等に分配されることになりました。デューク大学メディカルスクールの疫学者Jane Costello博士は、カジノがオープンしてからの経過を調査し、貧困に苦しむ人たちが給料以外のお金を得ると、体や精神にどのような影響が出るのか調査を実施しました。

By Thomas Hawk

調査開始から約5年後の2001年、カジノが東部チェロキー族インディアンに配布していた金額が1人当たり年間6000ドル(約62万円)を突破。配付金によって多くのインディアンたちが、貧困を抜け出せたとのことです。東部チェロキー族インディアンの子どもが引き起こす問題の発生件数は、カジノオープン前と比べると40%ほど減り、数値的には貧困でない地域とほぼ同じ値まで減少。調査の結果から、カジノの配付金が貧困に苦しむ子どもたちに、好影響を及ぼしたことがわかりました。

調査開始当初、お金が貧困に苦しむ人々の心理的・身体的な問題を改善できる可能性が低いと見ていたCostello博士は、調査結果に衝撃を受けたそうです。Costello博士は「通常、貧困問題に資本援助を行っても、大きな効果は期待されません。しかしながら、東部チェロキー族インディアンには目に見えるほどの大きな効果が現れたのです」と言及としています。

Costello博士が、さらに調査を続けたところ、東部チェロキー族インディアンの若者によって犯される犯罪件数は減少、また、高等学校の卒業率が上昇していたことが判明。2006年にはカジノから分配されていた配付金が1人当たり年間9000ドル(約93万円)にまで上昇し、Costello博士は第1段階の調査を終了し、配布金を受け取った年齢が若いほどメンタルヘルスにいい効果があったのかどうか、という次の段階の調査を開始します。

By Jose Maria Cuellar

Costello博士が9・11・13歳の子どもたちから調査を始め19・21歳の青年にまで進めたところで、配布金を受け取り始めた時の年齢が若ければ若いほど、メンタルヘルスに多くの好影響を及ぼしていることが判明しました。若くして配布金を受け取っていた東部チェロキー族インディアンの子どもの薬物乱用や精神医学的な問題の発生件数は、周辺地域に住む白人の子どもたちの約3分の1ほどにまで減少していたのです。

しかしながら、比較的遅い時期の14~16歳に配布金をもらい始めた子どもたちの問題発生件数は、周辺の白人の子どもたちと比べて、特に変化はありませんでした。年齢的に配布金を受け取るのが遅かった子どもたちは「貧困下で育ったことによって配布金では修正不可能なくらいの悪影響を受けていた」と考えられるとのことです。また、最も貧困な家庭環境に育っていた子どもたちの体重が増加したり、東部チェロキー族インディアンの中で交通事故の件数が増えるなど、ネガティブな事実も結果として出ています。

By عبدالمجيد المطيويع

Costello博士は「東部チェロキー族インディアンの親たちは、配布金によって余裕が生まれ、仕事に専念でき、光熱費の支払いを先に済ませたり、衣服を子どもたちに購入するなど、よい親として行動できました。その影響が子どもへの教育に現れたのではないでしょうか」と、配布金が貧困に苦しむ子どもたちの人生を軌道修正できた理由について考察しています。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校で行われた別の研究からは、貧困が子育てに及ぼす悪影響についてある事実が判明しています。「The Family Life Project」と名付けられた研究プロジェクトでは、生まれてからずっと貧乏な家庭環境で育てられてきた約1300人の子どもたちを対象に調査を実施。研究チームが母親の教育法・収入・地域の安全性などを数値化したところ、3歳までの語彙力・記憶力・実行力は子どもの親が抱えるストレスに反比例することが判明。少数ながらも、貧困下にありながら語彙力・記憶力・実行力を標準レベル以上に備えた子どももいましたが、多くの子どもは、財政問題など親が抱えるストレスが大きいほど、語彙力・記憶力・実行力が低かったことがわかりました。

By Trey Ratcliff

Costello博士の調査からは「貧困下の家庭に給付金を配布すると、子どもの成長に好影響をもたらす」ことが、そしてノースカロライナ大学の研究からは「貧困に苦しむ家庭環境が子どもの成長に悪影響を与える」ことが判明したのです。

Costello博士が行った東部チェロキー族インディアンの調査には、自分たちで経営しているカジノの利益から配布金を得ていること・配布金はそれだけで生活するのに不十分であることなど、貧困や病気を理由に生活保護を政府から受けている人たちとは、少し違った要因があり同軸上で比較することは難しいかもしれません。しかしながら、東部チェロキー族インディアンの例は、貧困に苦しむ家庭に少しの補助金を与えると、子どもだけではなく家族やその周辺の地域社会にもいい影響をおよぼした好例と言えるとのことです。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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