取材

作曲家・梶浦由記さんが作品との関わり方や作曲方法について語る


魔法少女まどか☆マギカ」「空の境界」「Fate/Zero」などの作品で劇伴を担当すると共に、音楽ユニット「Kalafina」のプロデュースも手がけている作曲家・音楽プロデューサーの梶浦由記さんが、これまで担当した作品との関わりや仕事の仕方について語る「デジタルクリエイターセミナー」が、マチ★アソビ vol.11の中で開催されました。

デジタルクリエイターセミナー 梶浦由記 - マチ★アソビ vol.11 2013.09.28~10.14開催
http://www.machiasobi.com/events/dezikurikouza.html



マチ★アソビはこの第11回目で4年目に突入しますが、梶浦由記さんは今年でメジャーデビューから20周年を迎えました。セミナーは司会をアニプレックスの高橋祐馬さんが担当、トークゲストとしてユーフォーテーブルの近藤光プロデューサーが同席して進められました。なお、記事中の発言は話した内容そのままではなく要約になっている部分があります。また、どういった曲を作ってきたのかがわかるように、できるだけAmazon.co.jpで試聴できるURLへのリンクをつけています。

デビュー~アニメの仕事に出会うまで

アニプレックス 高橋祐馬さん(以下、高橋):
梶浦由記さんは1993年に『See-Saw』としてデビューされて、今年がデビュー20周年です。

梶浦由記さん(以下、梶浦):
20年と言うと長いですが、振り返ると本当にあっという間に感じますね。

高橋:
そして今、BGMとしてデビュー曲の『Swimmer』が流れております。

梶浦:
アマチュア時代に初めてバンド用に書いた曲を完成させたものですね。非常に懐かしいです。

高橋:
そして梶浦さんは「See-Saw」としてのアーティスト活動と並行して、劇伴(作品のBGM)を制作されていきます。ちなみに会場の皆さん、梶浦さんがアニメで初めて劇伴を制作した作品が何かわかりますか?その作品は劇場版映画『新きまぐれオレンジ☆ロード』(1996年公開)です。

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梶浦:
実は『新きまぐれオレンジ☆ロード』のお仕事に出会うまでにも色々な流れがありまして、1994年当時、縁あって『interior music style / Afternoon TeaⅠ』というインストのコンピレーションアルバムに参加することになったんです。その時生まれて初めてインストルメンタルを3曲作りました。そして、たまたまその時の曲を市川準監督が聴かれ、そのご縁で、市川監督の映画「東京兄妹」の劇伴を担当することになりました。これが劇伴としては初めてのお仕事です。

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高橋:
アニメではなく、実写映画が初めての劇伴制作だったんですね。

梶浦:
そうなんです。そして『東京兄妹』をご覧になった方から「アニメの劇伴やってみませんか?」と誘われて『新きまぐれオレンジ☆ロード』のご依頼を頂きました。

ユーフォーテーブル 近藤光プロデューサー(以下、近藤):
これが『まどか☆マギカ』まで繋がっているんですね。感慨深いです。

高橋:
梶浦さんの中では、歌(楽曲)の制作と劇伴制作は、創作アプローチ的な面でどんな違いがあるものですか?

梶浦:
主題歌はキャラクター寄り、劇伴は世界観寄り、というのが自分の中では大きく違います。どちらも自分の中では読書感想文の様なもので、例えば原作のある作品であれば、その漫画や小説を読んで浮かんでくるものを形にしているのですが、主題歌はキャラクターの存在や心情に寄せることが多く、劇伴は作品世界全体との整合性が重要になってきます。もちろん主題歌も作品世界全体とのリンク感は大事ですが、劇伴の方が更に近い、むしろ完全に混ざり合うくらいが理想です。劇伴はどんなにいい曲を書いても、作品の世界観と整合性がとれていないと意味がないので、そこはすごく考えています。劇伴制作時は作品の背景画のデータ頂いてそれを見ながら作ることも多いですね。

『劇場版「空の境界」』について

高橋:
先ほど、劇伴と作品のお話がありましたが、近藤さん的に『劇場版「空の境界」』の世界観と梶浦さんの音のマッチングはいかがでしたか?

近藤:
梶浦さんと最初に打ち合わせをしたときに、いわゆるスケッチ的な『空の境界組曲』を作ってくれていて、聞いたときに「いいな、これはいける」と思いました。15分ぐらいのもので、この作品に対してどんな音楽を出してくるのかが詰め込まれていて、断片を拾い上げて大きくしたり縮めたりしたものが本編のサウンドトラックになっている事も多いです。組曲の段階で『空の境界』のメインテーマ曲はすでに入っていましたね。


高橋:
その『空の境界組曲』は、梶浦さんの中ではスッと出てきたものだったんですか?

梶浦:
『空の境界』に関しては、小説をいただいて読んでいるときから「相性がいいな」と思っていました。文章にはリズムがあって、いい本でもリズムが合う合わないはありますが、原作のリズム感が好きだったんです。そうして読んでいるうちにメインテーマが浮かんできたので「やばい、できちゃった」と読むのをストップして作り上げました。この時点では音楽をやるかどうかは決まっていなかったと思いますが、「欲をかいてはいけないけど、この作品の音楽をやりたい」と思って、打ち合わせの時に音楽を出してしまえば「イヤだ」とは言わないだろうと(笑)

(会場爆笑)

高橋:
なるほど、それでやっちゃえと(笑)。劇伴は具体的にはどの様に制作を進められるものなのですか?

梶浦:
まずは作品全体の流れが知りたいので、脚本なら脚本、原作なら原作をガン読みして、全体のテンションを掴みます。テンションというのは「楽しい」「悲しい」ではなく、感情の波の高さのことで、作品によって全然違うものです。どこまでみんなの感情が上がるのか、ピークはどこなのかと作品とつきあい始めて、それに合わせて感情の高低を決めて……という様に、割とイメージ的なところから始めます。

近藤:
このあと梶浦さんにきっと言われると思うけど『空の境界』は終わった後に「この10年で一番辛い仕事だった」って言われました。僕はコレを褒め言葉だと思おうと決めています(笑)

高橋:
なるほど(笑)。では梶浦さん、その『空の境界』の音作りはいかがでしたか。

梶浦:
大変でした(笑)。でもそれは辛い大変さではなく、大変だけど楽しい作業でしたね。

制作的な面では『空の境界』は劇場版というのが大きかったですね。テレビシリーズだと30分に1回キャッチーなものが流れないといけないなと思いますが、『空の境界』はダークな世界観で、しかも最低1時間弱から長いものでは2時間以上の長編。映画館で見るということはある程度長い時間その世界に閉じ込められることになるので、音楽も波を抑えていかないといけません。テレビシリーズだったら曲は全然違ったと思いますが、世界に閉じ込められて、CMも入らないので、極論、最初の20分はノイズみたいなものでも大丈夫で、きちんとその後にメロディが来れば流れとしては成立させる事が可能なんです。コンテ撮を見ながら、監督や近藤さんと色々なやり取りさせて頂きました。

近藤:
打合せは打合せで色々話しさせてもらうのですが、それだけじゃなく、コンテ撮やレイアウト撮のムービーを最初から一緒に見るんです。見ながら「音楽のインはこうしよう」とか、「ここはこういう曲で行こう」みたいに、ムービーを止めたり、戻したりしながら、全編を通してやりとりさせてもらいました。

梶浦:
近藤さんはパワフルな方で、例えば「曲を作ってみたら余韻が長く出来たのですが、これどうでしょうか?」と連絡すると、朝の4時や5時でもすぐに返信してくるんです。

近藤:
第七章のときには梶浦さんとのメールのやりとりが明け方まで延々終わらず、事務所の方から「なんとかなりませんか」と言われてしまいましたね(笑)

梶浦:
同報メールを使っていて、ふだん周囲の人は黙って見ているだけですけれど、4時間5時間とやってると「そろそろ……」って(笑)

高橋:
音作りは、打ち合わせ含め章ごとにされたのでしょうか?

梶浦:
そうですね、『空の境界』は章ごとに色が違っていて、基本的には女性的に作るんですが、例えば第五章は荒耶宗蓮が出張ってくるので男性的に作ろう、という様に各章で色々考えました。

近藤:
あと、作品全体として、SE(効果音)を使うのか音楽を使うのかは梶浦さんとよく話し合いました。梶浦さんがいい音を作ってくれるので、本来は効果さんにお願いするものを梶浦さんにお願いしたり。

梶浦:
SE的な事を求められる音楽に関しては、あまりメロディラインが立ってはいけないと思い、必要なところ以外は使わないようにして、メロディのないSE、色々な種類のノイズの使い方をしました。要は音圧なんです。ただのピアノメロディがある後ろにノイズがあるかないかで聞こえ方が違うし、ノイズにピアノメロディを乗っけたり、あるいはノイズを抜くと寂しくなったり……弦が同じ音を流していても、ノイズを増やすことでぐわっと熱くなったりします。

全体としては、こんなにもノイズを使った作品は他にないのですが、自分の中には各章ごとのノイズがあり、何度か見ていただいた方はザーッという音が聞こえただけで「これは何章だ」とわかるぐらい頭にこびりついていると思います。

『Kalafina』について

高橋:
続いて『Kalafina』の話に入りたいと思います。立ち上げ当初、どんなプロジェクトにしていきたいということを考えられたのでしょうか。

梶浦:
依頼としては「空の境界の主題歌制作をお願いしたい」というもので、例えばの案で「新人女性歌手を7人連れてきて1曲ずつ歌ってもらう」という様なアイデアもありましたが、具体的には何も決まっていませんでした。そこで私が「歌が上手い子でなければ」とワガママを言って(笑)、オーディションをさせていただき、今の3人に歌ってもらうことになりました。

近藤:
スタート時はいろんなアイデアがあって、ここでは名前の出せない有名人の方も挙がっていました。でも、原作に真摯なのはなんだろうかと考えたとき、「原作に合ったユニットを梶浦さんに作ってもらうのが一番ではないか」ということで、Kalafinaを作っていただきました。


高橋:
全7章あって歌がそれぞれ異なりますが、それぞれの歌詞や曲を作るというのは大変ではなかったですか?

梶浦:
これは逆に、全章通して同じ主題歌という方がやりにくかったと思います。一章ごとに違う主題歌を書けて、詞は各章の物語と、曲は物語や各章の劇伴との関連性を考えることができたので良かったです。同じ曲だと言われたら、悩んだと思います。

高橋:
たとえば第五章の『sprinter』は臙条巴との関連を強く感じました。

梶浦:
それもひとつの感じ方で、あの曲を違うキャラクターと紐付けて感じる方もいらっしゃいます。創作は読書感想文のようなものと言いましたが、作品を見る人は固定キャラのファンだけではないので、一人のキャラに寄せると狭くなりすぎてしまうんです。『空の境界 未来福音』の主題歌であるアレルヤに出てくる「小さな君の手」は誰の手? ということを聞かれたりしますけれど、十人十色の感じ方をできる様に、具体的にあまり狭めすぎない様にイメージできるぐらいのレベルを意識しています。

梶浦由記の音作り

高橋:
少しフランクな質問で恐縮ですが、お仕事をしていて「わー」「やだーっ」となる瞬間はありますか?

梶浦:
わー! となるのはしょっちゅうです(笑) 。作り始めるとどっぷりと「他のことは何もしたくない」状態になり、ヘンなテンションになったりします。作業場で、笑ったり泣いたり叫んだり、絶対他の人には見せられないような姿で、アゲアゲで作っています。ただ、冷静な部分も必要になってくるので、寝て起きたときのクールな状態で、それまでのものを必ず聞き直します。アゲアゲのときに作った曲は夜中に書いたラブレターのように恥ずかしいことになっていたりすることもあるので、「バカだったな、お前」と言いつつ作り直したりもします(笑)。

高橋:
気分転換やオンオフの区切りはどうつけていますか?

梶浦:
基本的に気分転換はしませんね、いらないと思っています。寝なければいけないとは思っているから、限界まで仕事をしたなと思ったら2時間ぐらい寝ます。

高橋:
今セミナーを聞いている人の中で梶浦さんになりたい人、2時間寝る以外は仕事ですよ(笑)。

梶浦:
気分転換は必要ない、なんて言うと変な人みたいに聞こえちゃうかもしれませんが、単純に、仕事のストレスは終わらないとなくならないので、「2時間気分転換してどうなるの?終わってないじゃん」っていうだけなんですよ。だから、気分転換はする必要性を感じないんです。

近藤:
同感です。終わってないのに遊びに行っても気になりますよね。

梶浦:
仕事をしている方がストレスが減ります。確実に進んでいるから。

近藤:
僕も同じです、だから次々と仕事をすることになってしまうんです。

梶浦:
たぶん、私は近藤さんほどではないかなと思いますけど(笑)

『魔法少女まどか☆マギカ』について


高橋:
『魔法少女まどか☆マギカ』は、新房昭之監督の作品としては『コゼットの肖像』以来となる劇伴制作でしたが、どんな依頼があったんですか?

梶浦:
最初の打ち合わせでキャラクターデザインとプロットを頂いて、パッと見たその絵がとてもかわいらしかったので「私も魔法少女の“キラッ”とした明るい音楽をやれるのか、やったぁ!」と思っていたら、「大丈夫です。梶浦さんにピッタリな内容ですから」ってフォローいただいて、どういうことだろう?っていうのがスタートでした(笑)。その後、作品説明や意図を伺いつつ、プロットを読んでその言葉を理解し、完成版の脚本が更にすごい内容になっていて「確かに私向きだな……」と(笑)。

高橋:
実際の作業としてはどんな感じだったんですか?

梶浦:
全体としては割とすぐに書けました。まどかの脚本は凄く面白くて、どこが山か、どこが落ちているところかもわかりやすく、先程お話したテンションを掴むのもすんなりいきました。あと、脚本に沿った形で音楽メニューをいただけたのも大きかったです。テレビシリーズの音楽は話数が多いのもありシーン合わせで書くことはほとんどないので、「悲しい曲を3曲、楽しい曲を3曲、盛り上がる曲を4曲」といったオーダーを頂いて作ることもあるのですが、まどか☆マギカは「この曲はこのシーンをイメージしています」と具体的に使う予定のシーンを伝えてもらったので、テレビとしては珍しく、絵合わせ(シーン毎に曲を書く事)の様に作らせて頂けました。

高橋:
制作アプローチとしては、どんなことをイメージされてというのはあったんでしょうか?

梶浦:
『まどか☆マギカ』は完全に少女世界で、悩んでいるのも戦っているのもすべて少女、ある意味で閉鎖空間なんです。キャラクターも中学1年生の女の子というわりと幼い子たちで、本人たちも閉鎖的、視野が狭い分だけ深いところもあります。だから、音楽の情感も彼女たちに寄せるようにして、映画を見ていて私たちが感じる悲しみではなく、視野の狭い女の子たちがぶつかってしまうどうしようもない悲しみを考えて作りました。

近藤:
梶浦さんが考えたように音が聞こえているからすごいですよね。

梶浦:
あそこまで“少女少女”したものを書いたのは初めてだったので新鮮でした。といっても、放送が近付いて出来上がるPVなどで拝見する映像が強烈だったので、劇伴がちゃんと映像と混ざり合うかは本編の完成までドキドキしていました。

音楽を仕事にするということ

近藤:
梶浦さんは音楽打ち合わせ前は準備をしたりするんですか?

梶浦:
事前に頂いた脚本や絵を見つつ、打ち合わせにはある程度プランニングしてから行って、自分の考えと合っていた場合はそのまま進めて、違う場合はその意見を取り入れるという感じです。でも、ここでは音はまだ鳴らしちゃいけないんです。全体的な流れを掴まないうちに作ると危険なので、作らないようにしています。

高橋:
非常にざっくりした質問で恐縮ですが、鳴らなくて困ることはあるんですか?

梶浦:
基本的にメロディには困らないですね。ただ、それが良いメロディならいいけれど、ダメなものが出てきて染みついちゃうこともあるので、そこは自分を制御しないといけないので”ある程度”に留めます。全体の流れを自分でプランニングできないうちに個別のシーンだけイメージを膨らませ過ぎると、このシーンはコレだと決まってしまって、全体を見直したときに修正が効かないんです。取り憑かれちゃうようなものです。

近藤:
その修正は梶浦さん本人で判断できるものなんですか?

梶浦:
ダメなモノは出さないと決めているので、基本的には私が判断しています。世の中に「心得ている」という言葉がありますが、あらゆる表現者は「心得て」いないといけないと思います。作曲家が曲を作るとき、歌い手が歌うとき、それが聞いている人の心にどういう影響を与えるのか、表現者は心得ていないといけません。それが客観性です。この曲がこのシーンに合わさったときにどういう影響を与えるのか、ドンピシャではなくても心得ていなければいけないと思っています。ただ、作曲においては、暴走したときにだけ作れるものもあるので、それはそれとして主観を全面に出しつつ、作った後そこから3歩ぐらい引いて見直す・判断するということをしないとダメです。

高橋:
主観性と客観性が両方あるんですね。ちなみに梶浦さんは、アマチュア時代から含めて、音を作ることの勉強はされたんでしょうか?

梶浦:
それは特にしたことがありません。きっかけ的には、うちの父親が歌曲やオペラを歌うのが好きだったので、子供の頃からその伴奏をさせられていたのが音楽に触れた原体験です。すると、ピアノと歌は素敵なものだと思う様になり、自分も歌うようになりました。既存の歌も歌いつつ、小学校2年生ぐらいで自作のものも歌うようになりました。このときは譜面などは書かず、ただ思いついたものを歌うだけでした。

それ以降も、知識を蓄えるという意味での勉強は勿論しましたが、”作曲法”みたいなことは特にしてこなかったです。だから、音楽の幅が狭いんですよ(笑)。

高橋:
子供の頃に素敵だと思った、好きだったものを今は仕事にされていますが、世の中に「好きなことを仕事にする論・仕事にしない論」というものがあります。好きなことを仕事にしている梶浦さん的には、その「するしない論」はどう思われますか?

梶浦:
好きを仕事にすると変わることもあるけれど、基本はアリだと思います。できることもいっぱいあるし、範囲が広がってもっと好きになります。失ったものもたくさんあるけれど、それはグダグダ言ってもしょうがない(笑)。

ただ、20歳を過ぎるまで音楽を仕事にするつもりはなく、したいとも思っていませんでした。音楽自体は好きで、曲を一生作るだろうなとは思っていましたが、親兄弟、親戚一同会社勤めで、そうなるのが当然だと思っていて、私自身も会社員になりました。会社の仕事も楽しかったですよ。でも学生の時にバンドをはじめて、それも楽しかったので続けていたのですが、仕事も音楽もやりたいけれども時間がない、今よりも寝ない生活をやっていて追い詰められていって、どちらかを選ぶしかなくなったときに音楽を選んだんです。

近藤:
アニメの世界で仕事として続けていけると思ったのはいつごろですか?

梶浦:
常に自分なりのプロ意識では臨んでいましたが、強く思ったのは『NOIR』をやらせて頂いた頃ぐらいですね。昔からオペラなどの雄大な世界観が好きだったのですが、アニメをやるまではそういった音楽は一切必要とされていなかったので、そういうものは作ってはいけないんだと思っていました。雄大な世界観の音楽は聞いて楽しむだけのものであり、商売にはならないのだと。それが、アニメの劇伴を何作かやらせて頂き、『NOIR』を経たあたりで「ここではやりたいことができるんだ!」と強く感じました。「普通のサウンドやJ-POP的なサウンドよりももっと大げさなものを作ってもいいんだ!」「こんなにも大げさにジャジャーンとならして、シンバルがバーン、ラッパがパパーって、そういう音楽を作ってもいいフィールドがあったんだ!」「楽しい!」って。

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近藤:
フィールドが拡がったんですね。

梶浦:
拡がったというよりも、自分を活かせるフィールドを見つけたという感じですね。ただ、自分の音楽の幅が狭いことは知っていたので、アニメ音楽の仕事はすごく楽しいけれど、きっとすぐに飽きられるだろう、仕事はもらえても3つぐらいだろうと思っていました。お陰様で『NOIR』がヒットしたのもあって、あといくつかは仕事が来るだろうから、その間に好きなことをやろうと思って「来た仕事は断らずにやろう、楽しい!楽しい!」ってガツガツやっていたら、気付いたら今まで続けさせて頂けていました。

近藤:
忙しさを今と比べるとどうですか?

梶浦:
今のほうが忙しいですね(笑)

高橋:
『NOIR』で続けられることを感じたあと、転換期の様なものはあったんでしょうか?

梶浦:
Xenosaga II」というゲームの仕事をやったときに、初めて大きなサイズの弦のスコアを書いた時ですかね。劇伴を作る人は音大を出ている方が多く、フルサイズのスコアを書けて当然なんですが、私は最初「仕事は3つぐらいかも」と思っていたので、弦楽器を使うときはトリオスコア(バイオリンとヴィオラとチェロ)が多く、本格的に手を付けていなかったんです。でも「このまま仕事をもらえるかも? やっていけるかも?」となったときに、もっと大きな弦の勉強をしないといけないと思って、スコアを買って勉強や研究をはじめました。その曲が出来た時に、一歩上へ行けた様に感じました。

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『Fate/Zero』について


高橋:
『Fate/Zero』は『空の境界』に続いてのufotableさんとのお仕事でした。劇伴制作はどうでした?

梶浦:
いやー、燃えましたね。英雄や中世っぽい人たちが次々と死んでいくような英雄譚で、話のスケールが大きくて、おまけにおっさん天国、最高ですよ! 王の軍勢が出てきて「ワアアアアァァァァ」っていうシーンがあったりする由緒正しい中世ファンタジーの雰囲気を汲んだ作品で、勇壮な音楽、書き放題です。こういった作品に音楽を書けるなんて一生に1度か2度だなと思いました。

近藤:
『空の境界』での積み重ねや他作品での音楽含め、梶浦さんはこういった作品の音楽も書ける方だというのはわかっていたので、アニプレックスの岩上プロデューサーと話をして是非お願いしましょうということになりました。しかも『Fate/Zero』の場合、テレビであるにも関わらず後半はすべて絵合わせで作ったりという事もあり、『空の境界』での積み重ねは様々な形で活きています。

梶浦:
ただ、絵合わせの場合、事前にある程度絵がないと曲が作れないので、絵を作る人が相当前倒しで作業していないとできないんです。これはufotableさんの頑張りが大きかったです。

近藤:
梶浦さんがそれに応えてくれることに、信頼というかそれだけの方なので、できる限り絵合わせをしようという話になりました。例えば、ごつい方々がどんどん消えていくときに、梶浦さんの曲が絵合わせで入っていて、映像と音が完璧にシンクロしたら最高だよねという様なことですね。

梶浦:
2ndシーズンでみなさんが散っていくシーンや衝撃的なシーンはほぼ絵合わせで、しかもすでに声優さん達がアフレコをしてセリフが入った映像に合わせて曲を作らせて頂けたので、それに釣られて出来た曲が何曲もあります。

近藤:
打ち合わせと違うことも何度かあったけれど、「これはどう?」とアプローチしてもらったものも新鮮で、とてもありがたかったです。

高橋:
キャラクター達が散っていくということでは、個人的には第23話のライダー対アーチャー戦は音楽も含め非常に印象に残っています。

梶浦:
ライダーが突っ込んでいくときにかかるあの曲は、できたときに「やったぞ!!」って思いました。大塚明夫さんの「アララララララララライ!!」の芝居が素晴らしくて「ここで凄いのが書けないと私の負けだ!」と思い、本当に燃えました。私の中でも戦いでした。

高橋:
メニューにそって劇伴を作るのと違い、絵合わせで劇伴を作るというのは、どんな形でアプローチされるものなのでしょうか?

梶浦:
シーンのテンションは自分の中で決まっていて、音楽とセリフはこれぐらいのテンションだろうということで作り始めて、始まったあとは流れです。「ここから入れるならピアノだろう」とか「この人の声ならチェロだろう」とかですね。ただ、いいなと思ったものができても、セリフと被るようだと変えたりします。大事なのは作品と混ざり合うことなので。

『空の境界 未来福音』について


高橋:
そして最後のテーマは、絶賛公開中(イベント当時)の『劇場版「空の境界」未来福音』です。9月28日の公開日は、最速上映ということで「0時・2時30分・5時」といった夜中の上映がありましたが、梶浦さんが初日の夜中にご覧になったという噂を……。

梶浦:
はい、テアトル新宿で見ました! 空の境界は一章~終章まで全部ふらっと行ってふらっと見ていますし、チケットも普通に買ってます。ファンのみなさんが見ているのと同じ感覚で見たいんですよね。

近藤:
あの激混みの中にですか?

梶浦:
はい、オンライン予約を使って席を確保しています(笑)。『未来福音』は仕事の都合で関係者試写に行けなかったので最速上映に行きましたけど、普段は空き始めたぐらいの時期に行きます。

高橋:
終章までと『未来福音』で、劇伴の制作に違いはありましたか?

梶浦:
まったく違いましたね。『未来福音』に登場する未来視の二人の内、瀬尾静音は今までのキャラクターと違うタイプだったので、彼女がいるシーンでは暖かめの音が続き、もう一人の未来視である倉密メルカ、彼は今までの『空の境界』的なキャラクターなので、メルカが出てくるシーンはこれまでのイメージをくんだような音がドーンと流れて懐かしさを感じたりといった、作中でのメリハリを考えて作りました。
全体としては、『未来福音』というタイトルも含めて、作品を包む明るさや幸せさを意識しながら、主題歌もそうですが、ご覧になっている方が求めるものにしたい、ちゃんと救われて終わりたい、大げさではなく”寄り添う”音楽にしたいなと思いました。

高橋:
近藤さん、劇伴の打ち合わせはどんな感じだったんですか?

近藤:
監督の須藤くんは絵描きで音のことは得意ではないという話だったので、梶浦さんと僕がずっと話しつつ、須藤くんの中にあるものを引っ張り上げる。とにかく梶浦さんとしゃべってみて、と促しながら進めましたね。

梶浦:
打ち合わせをしていると、監督も言おうとは思っていなかったであろうことがぽろぽろと出てきて、それがヒントになったりしました。「こういう音楽にして下さい」ではなく「こういうつもりで絵を作りました」の方が分かりやすいこともありますよね。どういう音楽をつけるかは音楽家に任せてしまえばOKで、どういう気持ちで作ったかがわかれば、テンションを上げるのか悲しみでいくのかといった判断の役に立つかもしれません。音楽打ち合わせは、専門的な知識が必要なわけではないので、難しく考えなくて大丈夫です。

近藤:
失礼な言い方かもしれませんが、梶浦さんは勘がすごくいいんです。「お願いしたことがなぜ分かるの!?」っていうぐらい。

高橋:
完成した作品をご覧になっていかがでした?

梶浦:
素晴らしい作品でした。これまでもそうであった様に、ufotableさんの創る映像のきれいさや演出の面白さに改めて感動させられると共に、映画を見終えた後に「未来へ向かって頑張ろう」って気持ちになれるので、すごくいい幕引きだったなと。幸福な終わりで嬉しいなというのが感想ですね。

高橋:
その中で流れていた『dolce』と『アレルヤ』の両曲はどんなイメージで作られましたか?

梶浦:
『アレルヤ』は初めて映像を通しで見たときに、音が頭の中に流れてきたんです。それを譜面に書くのに追いつくのが大変で、曲の尺と同じぐらいのペースでできた曲ですね。なかなかそういう風に出来ることはないんですが、自分の中ではエンディングとしてしっくり来るものが出来たと感じました。

近藤:
『未来福音』の打ち合わせには主題歌を「できちゃった」って持ってきたんですよね。

高橋:
この流れ、同じことがあったような(笑)

近藤:
須藤くんが聞いた後にすごくニコッとして「ありがとうございます」って言って、一発OKでしたね。

梶浦:
自分の中では「これはいいのが出来た!」という曲だったので、ダメだった場合にこの印象を消すのはすごく大変だったなと思ってドキドキしていたので、よかったです。

近藤:
そういえば、『空の境界(一章~終章)』のときも『Fate/Zero』のときも、梶浦さんに「音楽直して下さい」って結構言ったスタジオですからね(笑)。

梶浦:
そんなこともありましたね(笑)。

高橋:
『extra chorus』で流れた『dolce』はいかがですか?

梶浦:
曲が流れる直前のシーンが「おめえら、甘々だな」って、見てるこっちが嬉しくなるような甘々具合でニヤニヤしちゃうシーンで、でも、ああいう幸福なシーンで終わることがあの二人にとって非常に大事なことなので、とにかく幸福な曲にしようと思いました。本当はもっと長くしたかったんですけど、都合上、3分でと。

近藤:
作品の構成的に『extra chorus』が先に流れるので、長くできなかったんですよ。でも、僕らも式と幹也がどうなるかわかった上であのように作ったので、主題歌も含め完璧でした。

高橋:
さて、様々お話伺って参りましたが、そろそろお時間が近付いて参りました。最後に一言いただいてよろしいでしょうか。

梶浦:
梶浦由記個人としてはマチ★アソビへ初参加で、とても楽しかったです。私はアニメの音楽を作る仕事がとにかく好きで、10本でも20本でも、30本でもやりたいと思っています。新しい作品と巡り会ったときにはすごくドキドキワクワクして幸せです。これからもいろんな作品の音楽を作って、みなさんにその作品のドキドキワクワクを伝えられたら嬉しいなと思っています。クレジットの中に「梶浦由記」という名前を見かけたら「ああ、また書いてるな」と思って頂けたら嬉しいです。
本日はありがとうございました!

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