メモ

ゴミだけでなく個人情報も集めていた監視カメラ大国イギリスの「スマートゴミ箱」とは?


監視カメラ大国イギリスには300万台を超える監視カメラがあり、ロンドン市民は一日あたり300回以上撮影されるといいます。そのロンドンでは、人を撮影する監視カメラだけでなくスマートフォンデータを記録、収集するリサイクルボックスまで登場。あまりの評判の悪さにようやくデータの収集が中止されることになりました。ゴミだけでなくデータまで回収する悪名高き箱とはいったいどんなものなのでしょうか。

City of London halts recycling bins tracking phones of passers-by – Quartz
http://qz.com/114174/city-of-london-halts-recycling-bins-tracking-phones-of-passers-by/

This recycling bin is following you – Quartz
http://qz.com/112873/this-recycling-bin-is-following-you/

City of London calls halt to smartphone tracking bins - BBC News
http://www.bbc.co.uk/news/technology-23665490

No, this isn’t a scene from Minority Report. This trash can is stalking you | Ars Technica
http://arstechnica.com/security/2013/08/no-this-isnt-a-scene-from-minority-report-this-trash-can-is-stalking-you/

◆ハイテクなゴミ箱
Renew London社(以下、Renew社)は、ロンドンオリンピックが開催された2012年より前から、ロンドン中にハイテクなゴミ箱「bin」の設置を開始します。binは側面にデジタルスクリーンを備えているだけでなく、インターネットに接続されており、表示する内容はオンラインで更新することができます。この「スマートゴミ箱」とでもいうべきbinを、Renew社はロンドンの市街地に100台無料で設置、結果的に税金を投入せずにスマートゴミ箱を手に入れたロンドン市は大喜び。さらにちゃっかりデジタルスクリーンの5%の時間は公共情報を流すことをRenew社に合意させることにも成功。しかし、Renew社がbin100台を無償提供したのには当然理由がありました。binプロジェクトは、ゴミ箱横につけられたスクリーンを広告スペースとして販売することで利益を上げるビジネスモデルだったのです。

こちらがbin。画面に広告が表示されています。もちろん普通のゴミ箱としても利用OK。


ロンドン市民とオリンピック観光客は、広告付きとはいえ新しいゴミ箱が至る所に設置されてとても便利になりました。無償で100台ものスマートゴミ箱を得たロンドン市は「税金をかけずに設置しました」とオリンピックの取材にやってきた世界中のメディアに自慢します。Renew社も広告費用でbinの初期費用さえ回収すればコンスタントに利益が見込めます。誰にとってもメリットがあると考えられたRenew社のビジネスモデルでしたが、次第に批判の目にさらされていきます。

◆トラッキング機能ORB
事の始まりは、Renew社がbinに「ORB」という機能を装備させたことでした。ORBは、Renew社と同じくロンドンに拠点を構えるPresence Aware社によって開発された追跡デバイスで、「リアル世界でのトラッキングクッキー」というべき機能を持っていました。トラッキングクッキーとは、インターネットユーザーのブラウジング傾向などを収集する目的でウェブ上に記録がされる仕組みのことです。クッキー自体には個人を識別したり特定したりする情報はついておらず「誰なのか分からない誰かがどんなWebサイトを見ているのか、どんな嗜好があるのか」といった傾向を調査するために利用されています。ORBの場合、スマートフォンごとに固有で割り振られているMACアドレスを検知し、その動きを追跡するというもので、「ネット世界」で利用されるトラッキングクッキーの「リアル世界」バージョンなのです。

By darwin Bell

Renew社は、binにORBシステムを導入することで、ゴミ箱のそばを通る人でWi-Fi機能がONになったスマートフォンからMACアドレスを収集する機能を追加します。これにより、Renew社は、binのそばを歩く何万人もの人の行動を把握することが可能に。例えば、あるMACアドレスユーザーが前にいつここにやってきたのかという情報はすべて蓄積されていき、場合によっては次に訪れるのはいつかなどということの予測さえ可能になるという状態に。

さらにRenew社は、binの追跡機能をマーケティングコンテンツとして広告主に販売します。例えば、あるバーにRenew社の追跡デバイスを5台設置することにします。1台は入り口、1台は天井、1台はレジ、そして男女のバスルームに1台ずつという具合。これで、それぞれの客の性別(これはバスルームで判別可能)、客の嗜好(テラスならアルコール、中なら食事などと判別可能)、滞在時間(入り口で判別可能)などが分かります。これらの蓄積されたデータは、binに共有されます。そして、バーを利用する「MACアドレス」が現れたときに、binはバーを宣伝するターゲット広告をすかさず表示するのです。町中のbinがターゲットであるMACアドレスユーザーを追跡し続けます。なお、これは実際にあるバーとRenew社との間で導入が検討されていたモデルです。

By oatsy40

この種の個人別の広告手法についてはマイノリティ・レポートで予見されたものが有名です。もっとも、binは、MACアドレスから端末がiPhoneかGalaxyかという情報まで把握可能。実際に、Renew社のプレスリリースには、binは企業や小売店にとって強力な販売促進ツールになり得ること、ターゲットの行動を分析することで完璧なまでの行動予測が可能であることがうたわれました。

◆試験運用開始
Renew社は、ロンドンにある100台のbinの内、ロンドン中心部の12台に追跡デバイスをインストール、MACアドレスの収集を開始します。12個のbinの大半は、小売店が並び賑やかな通りのあるCheapside地区に設置されたことからも、マーケティングツールとしてbinを活用しようとの意図が明らかです。

ORBをインストールした最初の一ヶ月で、binは100万台の端末を捕捉したといいます。Renew社の報告によると、7月6日にbinは94万6016回端末の存在を認識し10万6629人の人々をそれぞれ区別することに成功したそうです。6月のある1週間で400万以上の端末を追跡、4分以内の足跡はMAPデータとして提供しました。

下の図はbinが1週間に記録した端末のデータをグラフにしたものですが、ここからは通勤とランチの時間だけグラフが急上昇していることが見て取れます。


このようなbinの運用に、個人情報の収集だ、プライバシーの侵害だとの批判が殺到します。しかし、Renew社の最高経営責任者Kaveh Memariはこれらの批判は当たらないと反論。それは「MACアドレスは固有情報ではあるが、持ち主の名前や他の個人識別情報を明らかにはしないから」という理由です。さらに、Memari氏は「FacebookやGoogleのような会社はもっと多くの個人情報を集めている」と他社を貶めて自己弁護をはかります。たしかにFacebookやGoogleが多くの個人情報を保有していることは正しいのですが、それらのサイトには情報の利用について期限や条件がついています。利用条件が一切ないbinとは全く違うため自己弁護になっていません。

Renew社が、多くの批判にもかかわらずbinでのMACアドレス収集を続けた背景には法の不備がありました。イギリスやEUでは、クッキーを使った個人データの探索についてはPCもモバイル端末も含めて厳格な法律があるものの、個人の携帯電話のMACアドレスを追跡することについては法がありません。

このため強気なMemari氏は「我々からいわせてもらえば、binの仕組みは誰にとってもオープンであり、誰だってデータを買うことができる」「ロンドンは世界一監視された都市であり、名前や住所という情報を付け加えない限り、binは合法だ」と主張、binによるMACアドレス収集を続けます。そして、binの技術を、ニューヨーク、ドバイ、クアラルンプールへと拡大させようと計画します。

By kenjonbro

◆binから逃れることは困難
ロンドンでbinにスマートフォンのMACアドレスを捕捉されないようにする方法は二つあります。一つはWi-Fi機能をOFFにすること。ただし、Memari氏によれば「80%の人が家やオフィスを離れるときもWi-Fiをつけたままである」とのこと。毎回Wi-Fi機能を確実にOFFにし外では絶対にONにしないというのは至難の業です。Memari氏によると「初日、二日目、三日目にあなたを見かけなくても、結局いつかあなたを捕らえられる。たった一度だけあなたがWi-FiをONにしている時を待っていればいいのだから」という言葉から、この対策がまったく有効でないことが分かります。

もう一つの方法は、自分のMACアドレスをbinで捕捉しないようRenew社のオンラインフォームに入力すること。しかし、これはRenew社にMACアドレスを自ら暴露する行為に他ならず、実際に捕捉対象から外してもらえる保証もないことからこれまた有効な対策とはいえません。結局、ロンドンでbinからの捕捉を逃れることは不可能に近い状態だったのです。

◆運用停止命令
8月12日、ロンドン市は、「技術的に可能かどうかにかかわらず、今回Cheapsideのストリートで起こったようなあらゆることは、より注意深く行わねばならず、また内容を事前に公開し市民の意見を募る必要がある」とbinによるMACアドレスの収集行為を中止するようRenew社に通達しました。これにより、ロンドンでのスマートフォン端末のMACアドレス収集行為はようやく終了することになりました。

Big Brother Watchの指導者Nick Pickles氏は、「ロンドン市がこのスキームを停止したことを喜んでいます。しかし、なぜ人々のプライバシーにこのような騒々しいアタックを仕掛けることが可能になったのかという疑問を呈していくことが必要です」とコメントしています。

やはり「タダより高いものはない」と言えそうです。

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