14年間もネットを震撼させ続けたEolas社の恐るべき特許とは?


訴訟でMicrosoftに勝利し、5億2100万ドル(当時のレートで約625億円)もの賠償を認める判決を獲得したことで世界を驚かせた小さな会社Eolas Technologies(Eolas)。このMicrosoftを相手に勝訴判決を得たEolas社の保有する特許が、2013年7月23日、ついに無効であることが確定し、平和が訪れました。この結果により、同社が起こしてきた数々の訴訟が事実上すべて終結することになったのですが、一体どのような特許だったのでしょうか?

Eolas - Wikipedia
http://en.wikipedia.org/wiki/Eolas

The Web’s longest nightmare ends: Eolas’ patents are dead on appeal
http://arstechnica.com/tech-policy/2013/07/the-webs-longest-nightmare-ends-eolas-patents-are-dead-on-appeal/

Eolasが持つ特許(米国特許5,838,906号)は、ウェブブラウザで双方向的な埋め込み型アプリケーション(プラグイン)を動かすための技術に関するものでした。例えば、「YouTubeの動画を埋め込むためのHTMLコード」はこの特許技術を活用するものです。


Eolasはこの特許を武器に、Microsoftをはじめ、Google、Apple、Yahoo、Adobe、Sun Microsystemsといった名だたる企業を訴えまくり、多額の賠償を請求しまくることになります。このため、Eolasはいわゆる「パテント・トロール」の代表格と見なされたこともありました。

By Joriel "Joz" Jimenez

すべては、後にEolas社を興すことになるマイケル・ドイルが1993年に行った研究に始まります。当時ドイルは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のコンピューター研究所の管理者でした。コンピューターの研究をしていたドイルは、医師がオンラインで胎児を診断するプログラムを発明します。後にこのプログラムはインターネットで「interactive(双方向)」な利用をした初めての発明であった、とドイルは一連の裁判で主張することになります。この発明は「HTML内の埋め込みオブジェクトの表示を提供する外部のアプリケーションを自動的に呼び出すためのメソッド」というタイトルで1994年10月に特許出願され、カリフォルニア大学との共有特許として1998年11月17日に米国特許5,838,906号として成立しました。

1999年、ドイル率いるEolasは、MicrosoftがEolasの持つ特許を侵害しているとして提訴します。具体的には、Internet Explorer(IE)に実装された、JavaアプレットやAdobeのAcrobat文書、Macromedia(当時)のFlashムービーといったプラグインアプリケーションをウェブサイトで起動、実行するActiveX技術が特許権を侵害するというものでした。


当時Microsoftは、コンピューター関連産業に君臨する絶対王者であり、またIEはウェブブラウザの世界標準的地位を占めていました。ドイルは「今回の訴訟は、新興のブラウザ企業Netscape CommunicationsをたたきつぶすためにMicrosoftが行った数々の悪事を正すものだ」と主張。ドイルただ1人が従業員というカリフォルニアの小さな企業が世界的大企業に真っ向喧嘩を売ったと話題になりました。


しかし、事はドイルの思惑通りには進みませんでした。当時のウェブ関連企業はみなIEのプラグインを想定してサイトを構築しており、Eolasが勝利すれば世界中のウェブサイトでタグの書き換え作業が必要となります。そして、Eolasの特許を侵害する(のが明白だった)技術には、FlashやJavaアプレット、QuickTime、RealAudio、RealVideoなどがあり、Microsoftが敗訴すれば、これらの技術を提供する会社が次の標的になることは簡単に予想されました。当然これらの技術を利用するサイトも影響を受けることになります。このように、Eolasが持つ米国特許5,838,906号が、当時のウェブ業界に与える影響力はすさまじいものであり、必然、世界中のウェブ関連企業はMicrosoftの肩を持つという流れに。世界中のコンピューター関連企業からうとまれののしられ悪の権化のごとき扱いを受けていた巨人Microsoftが、なんと世界中から応援されるという当時では考えられない事態が起こったのです。

By Nathan Rupert

こうして世界中を敵にまわすことになったEolasですが、2003年8月、Microsoftに大勝利、5億2100万ドルの損害賠償を認める判決をゲットし世界中を驚かせたのでした。すかさずMicrosoftは上訴し判決内容を争います。世界中のウェブ関連企業も、Eolasに対して「このパテント・トロール野郎!」とののしったかどうかは分かりませんがMicrosoftを支援することに。その後、Micorsoftから米国特許5,838,906号が無効である旨の申し立てを受けるものの、かろうじてEolasは特許無効審判もクリアー。虎の子の特許を守り抜きます。結局、2007年8月27日、MicorsoftはEolasから特許のライセンス提供を受けるという形でこの特許訴訟は終焉を迎えます。Micorsoftが支払った和解金の額は公表されていませんが、1億ドル(当時のレートで122億円) 以上とも3040万ドル(当時のレートで約36億円)ともいわれています。

By Abayomi Azikiwe

Microsoftとの戦いに勝利をおさめ気をよくしたEolasは、次なる標的に向けて始動します。2009年10月、Eolasは大企業をなんと22社も訴えます。訴えられた大企業といえば、Apple、Amazon、Adobe、eBay、Yahoo!、そしてYouTubeを買収したGoogleという恐ろしく豪華な顔ぶれ。まさに怖いもの知らずのEolasです。2012年1月の裁判記録によれば、当初のEolasの請求総額は6億ドル(当時のレートで462億円)強でしたが、裁判が始まると10億ドル(当時のレートで770億円)以上に拡大。Eolasの要求はとどまるところを知りません。一方、米国特許5,838,906号の権利を共有するカリフォルニア大学も共同原告として訴訟に参加していますが、裁判上での振る舞いはきわめて低姿勢であったとされており、イケイケのドイルとは対照的です。

By renaissance_nerd_1

一連の特許訴訟では、米国特許5,838,906号は新規性がなく無効であることが被告企業から主張されました。というのも、先行発明が存在する場合には新規性要件が満たされず特許が無効になるためです。Eolas率いるドイルは、カリフォルニア大学で発明した「医師がオンラインで胎児を診断するプログラム」がウェブを「interactive(双方向)」に利用をした初めての発明であるとその新規性を主張します。しかし、皮肉にも共同原告であったカリフォルニア大学出身の2人の科学者の証言が、ドイルの主張を打ち砕きます。

当時カリフォルニア大学バークレー校の学生だったペイ・ヤン・ウェイは、1990年代初めに、先進的なブラウザー「Viola」を開発していました。同じく学生だったスコット・シルバーは、Violaで飛行機のイメージを回転させるプログラム「VPlot」を開発しました。Violaブラウザーは、ウェブを「interactive(双方向)」に利用するプログラムだったのです。2012年2月、シルバーは、「VPlotとViolaを1993年5月にSun Microsystemsに紹介した」という証言をしました。これは、ドイルが発明を思いついたと主張する数ヶ月前のことだったのです。この証言が決め手となり、2012年7月23日、米国特許5,838,906号(および関連特許である米国特許7,599,985号)が無効であるとの陪審評決が下ります。そして、その1年後の2013年7月23日、自身の特許権が有効だとのドイルの主張は退けられ、特許無効判決が下り、ついにドイルの特許が無効であると確定しました。これにより、Eolasが起こした特許裁判はすべてEolas敗訴という形で事実上終結することになりました。

By Julie Blaustein

こうしてEolasが起こした特許戦争をあらためて振り返ってみると、インターネット関連産業の栄枯盛衰とそのスピードの早さを知ることが出来ます。当時、唯一無二の絶対王者として君臨していたMicrosoftは将来性に悩みを見せ、王者の座を今ではGoogleやAppleに譲った感があります。最初に特許侵害が争われたIEも今では機能的にGoogle ChromeやFirefoxの後塵を拝しています。Eolasが続けた特許戦争は14年に及びましたが、インターネット関連産業にとって、それは途方もなく長い戦いであり、今でもスマートフォンやさまざまな分野で特許による争いが続いている以上、第2・第3のEolasが出現して再びインターネットに関連するあらゆるものに危機を与える日もそう遠い日ではなさそうです。

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