サイエンス

銀河団同士を結んでいるダークマターフィラメントによる重力レンズのわずかな歪みを確認

By NASA Goddard Photo and Video

つい先日、CERNがヒッグス粒子とみられる新粒子を発見するという大発見を成し遂げましたが、7月4日付けの学術雑誌ネイチャーにはこれもまた大発見と言って間違いない、フィラメント状のダークマター(ダークマターフィラメント)の存在を実際に確認したという論文が掲載されています。

ちなみに、トップの画像はNASAが撮影したアンドロメダ銀河。


A filament of dark matter between two clusters of galaxies : Nature : Nature Publishing Group

Dark Matter Filament Between Galaxy Clusters Found | Space.com

Dark matter is the thread connecting galaxy clusters | Ars Technica

太陽系は銀河系(天の川銀河)のオリオン腕に位置していて、他の銀河としては、天の川銀河に最も近く「銀河鉄道999」にも登場するアンドロメダ銀河や「宇宙戦艦ヤマト」に登場する大マゼラン銀河(大マゼラン星雲)などが知られています。こういった銀河が数百から数千、重力的に束縛された状態にある天体を銀河団と呼びます。

地球から27億光年離れたところに「エイベル222」「エイベル223」という2つの銀河団があるのですが、この間にフィラメント状のダークマター(ダークマターフィラメント)があるということが、ミュンヘン大学天文台の天文学者イェルク・ディートリヒ(Jörg Dietrich)氏らのチームによって確認されました。「ダークマターフィラメントが存在する」ということ自体は理論としては言われてきましたが、実際に確認されたのはこれが初めて


写真上側にあるのがエイベル223(2つの銀河ハロを内包)、下にあるのがエイベル222。黄色い線のところにフィラメントの存在が確認されました。2つの銀河団にかかる橋のようになっています。


アインシュタインの一般相対性理論によると、重いもの(天体の重力など)はその周辺の宇宙や時間をねじ曲げるので、結果、光を含めて通過するものすべてに曲がった経路を取らせることになります。遠い銀河から地球までの光が途中で何らかの重いものにさしかかると光が曲がり、銀河の像も歪みます。この現象は光が曲がるところが光学レンズに似ているところから重力レンズ(重力レンズ効果)と呼ばれます。

NASAが作成した模式図。白い矢印が銀河から放たれた光で、地球へ到達する前にゆがめられています。そのため、まるでオレンジ色で描かれた直線で届いたかのように見えてしまいます。


これはハッブル天文台が撮影した写真。銀河団エイベル1689によって重力レンズが作られたため、その周辺にある銀河の形が円弧状に歪んで見えています。

NASA, N. Benitez (JHU), T. Broadhurst (Racah Institute of Physics/The Hebrew University), H. Ford (JHU), M. Clampin (STScI), G. Hartig (STScI), G. Illingworth (UCO/Lick Observatory), the ACS Science Team and ESA

上記の例ではエイベル1689がレンズ源ですが、重力レンズはレンズ源の影響の強弱により「Strong lensing(強い重力レンズ)」「Weak lensing(弱い重力レンズ)」「Microlensing(重力マイクロレンズ)」という3種類に分けられます。

ディートリヒ氏とその同僚は、国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡による銀河団の可視・赤外線観測のデータを調べあげ、その中からエイベル222とエイベル223の間のフィラメントによる「弱い重力レンズ」が生みだしたわずかなひずみと拡大を見つけました。多くの天文学者は、フィラメントの重力レンズは弱すぎるため、望遠鏡の能力が著しく進化するまでは検知することは難しいと考えてきましたが、ディートリヒ氏らはこの測定結果をX線測量と比較、フィラメントが高温ガスをほとんど含まず、銀河を欠き、光学波長では不可視であるということを結論づけました。調べの中で、ディートリヒ氏らのチームは4万以上の銀河からの光についてのデータを統計的に解析、その結果、エイベル222と223の間にあるダークマターフィラメントが時空をゆがめていることを確定させました。

この測定結果は、クモの巣状に広がったダークマターが足場となり、そこに普通の物質が集まってきて銀河ができてきたという宇宙の形成に関する標準理論(宇宙の大規模構造)の強力な支えとなるものです。広がったダークマターのフィラメント同士が交差すると、そこに球状のダークマターハロ(ダークマターハロー)が生まれ、大きく成長します。このダークマターハロが普通の物質の集まる助けになった、というわけです。特に大きなハロは自らの重力で結合したものとしてはこの宇宙で最大の物体である銀河団となります。

他の銀河団の間でも同様にダークマターフィラメントを探せるのではないかということが期待されますが、今回のように実際に地球から観測可能という条件に当てはまる候補はなかなか存在しないそうです。

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in サイエンス, Posted by logc_nt

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