取材

15歳で新海誠作品に出会った少女が21歳で新鋭監督として鮮烈デビュー、「この男子、宇宙人と戦えます。」山本蒼美監督トークイベント


2011年5月に劇場公開されたアニメ映画「星を追う子ども」の監督である新海誠さん。作品を作りたいという情熱は迸っているが、映像制作技術はまだまだプロのレベルに達するものではなかった「自主制作アニメ」の中から、制作作業のほとんどを1人で行った上に並の自主制作作品では太刀打ちのできないような高品質な作品を作り上げたことで脚光を浴びた人物で、2004年の長編アニメ映画「雲のむこう、約束の場所」は、宮崎駿監督の「ハウルの動く城」を押さえて毎日映画コンクールのアニメーション映画賞を受賞するほどの出来映えでした。

その、新海誠監督のデビュー作品である「ほしのこえ」を中学生の時に見て衝撃を受け、映像制作の道に進んだ一人の少女がいます。それが、「この男子、宇宙人と戦えます。」でデビューを飾る21歳の新鋭、山本蒼美(そうび)監督です。

わざわざ自分で手描きしなくても、ある程度パソコンが使えればアニメを作れるようになった現在、自主制作作品のクオリティはどんどん上がってきており、2009年にYouTubeとニコニコ動画で公開され大変な話題作となった「フミコの告白」は京都精華大学マンガ学部に通うTele(石田祐康)さんが作ったもの。……とはいえ、21歳で監督デビューするというのは相当な早咲きといえます。

そんな山本監督が、自ら作品について語るトークイベントがマチ★アソビ vol.7の中で行われました。

この男子、宇宙人と戦えます。
http://www.konodan.com/



イベントに登壇したのは、本作を手がけるコミックス・ウェーブ・フィルムの川口典孝さん、山本蒼美監督、酒井雄一プロデューサー。前述の通り、山本監督は本作でデビューなわけですが、同時に酒井プロデューサーもこれが初プロデュース作品となるそうです。


新作アニメが1クールに何十本も放送されている中、ただのテレビアニメではなく、業界で初めての試みとなる「アニメイトのポイント景品アニメ」として9月20日から交換がスタートした本作はかなり異色の作品となります。

コミックス・ウェーブ・フィルム 川口典孝代表(以下、川口):
おはようございます、1人か2人かなと思っていたらこんなに大勢に囲まれて、感無量でございます。東京から来ましたコミックス・ウェーブ・フィルムの川口と申します。さっそく、マチ★アソビの「この男子、宇宙人と戦えます。トークイベント」、カッコとじで(グダグダ)と書いてありますが、ゲストのご紹介をさせていただきます。監督の山本蒼美です。

山本蒼美監督(以下、山本):
緊張しています。今回、「この男子、宇宙人と戦えます。」の監督をさせていただきました山本蒼美と申します。よろしくお願いします。

川口:
続きまして、弊社プロデューサーの酒井雄一です。

コミックス・ウェーブ・フィルム 酒井雄一プロデューサー(以下、酒井):
今名前を言われてしまいましたが、「この男子、宇宙人と戦えます。」でプロデューサーをさせていただいたコミックス・ウェーブ・フィルムの酒井雄一と申します。僕がどれだけこの作品に気合いを込めているかというと、ちょっとあちらのパネル(キービジュアル)を見てもらうとわかると思うんですが、一人スーツを着た男がいます。今回、私はそのコスプレをして来ました。それぐらいの気合いを込めてこの作品をアピールしていければと思っておりますので、みなさん、よろしくお願いします。


川口:
ほんとグダグダだよね(笑) みなさん、こうして来ていただいてなんなんですが、今日は新海誠とか来ないですし、後ろに声優さんも控えていませんが大丈夫ですか?こんなテンションでぐだぐだーと行きますが、ご了承ください。


川口:
「この男子、宇宙人と戦えます。」はまだほとんど世には出していない作品なんですが、ご覧になられた方はいらっしゃらないですよね……?(1名が挙手)

酒井:
全国のアニメイトさんでポイント景品としてこのアニメを出させていただいておりまして、結構残るんじゃないか、お店の方に置いておけるんじゃないかと思っていたんですが、実は2、3日ぐらいでなくなってしまい、お店にあることも認識されないままに消化してしまっていいような悪いような状況になってしまって。

川口:
数百本しか出さなかったんですよね。そのうちの1本がこんな確率で持たれているということで。

(実際に持っていた人がパッケージを取り出す)

酒井:
ああ!ありがとうございます!当日ダッシュでお店に行かれた方かなと思いますけれども。

川口:
じゃあ、なんですから映像を。僕がリモコン押せばいいですか?

「この男子、宇宙人と戦えます。」予告編 第一弾



川口:
おおー。まったく見えなかったけれどなんかいいですねぇ。

酒井:
すみません角度的に見えなくて。

川口:
山本蒼美さん、監督。声優さんじゃないですからね、監督ですからね。21歳。

山本:
はい。

川口:
21歳って……ねぇ、どう?今回のプロジェクトで最年少が監督だと。

酒井:
誰よりも若かったですね。

川口:
出身地は?

山本:
広島で、平成生まれです。


川口:
平成生まれですって、もう!このプロジェクト、21歳で監督になるにいたった経緯、お願いします。

酒井:
監督はうちの会社の者が委員として入っていたデジタルコンテンツ協会育成委員の紹介から……

川口:
堅いなその話、堅いなぁ。

酒井:
ではちょっと巻き気味で。監督と最初にお会いしたのは僕ではなかったのですが、「とても若くて優秀なクリエイターが30分の作品を作ろうと思っているので、ちょっと会って担当してみろ」と言われたんです。そこで監督からプロットをもらった段階で面白いものが作れるのではないかと思い、連絡を取って作品を作るに至ったというわけです。


川口:
監督、これであってますか?

山本:
私は、別の方から「コミックスウェーブさんがラノベっぽいのを作りたいと思っているから紹介してあげたよ」と言われて。

川口:
全然違うね(笑)

山本:
そのあとで、先ほどのようなやり取りに、と。

川口:
なるほど。タイトルが「この男子、宇宙人と戦えます。」……なんですかこれは?どうやって決めたんですか?

酒井:
コレに関しては原案タイトルがあったんですが、ちょっと監督の方から。

山本:
はい、「優しい世界の救い方」というタイトルで。

酒井:
これが結構類似しているタイトルがあり色々な問題がありまして、私の方からもう少しインパクトのあるタイトルの方が目立つのではないかと思って、「冷やし中華始めました」みたいなノリで、「この男子、宇宙人と戦えます。」というタイトルを出させていただきました。

川口:
監督、自分の商業デビュー作品が「中華丼始めました?」みたいなこういうセンスで大丈夫でしたか?

山本:
大丈夫です。原案タイトルの方も一応副題に残っていまして。

酒井:
はい、さすがに申し訳なかったのでキャッチの方に入れさせていただきました。

川口:
企画書を初めて見たとき、まだ文字なわけじゃないですか。そしてデザインが上がってきて、何というかこう、BLの香りがあって、こっちに行くんだ、と。これは監督の意向?

山本:
いやぁ……それはお話がありまして、プロデューサーさんと打ち合わせさせていただいたとき、主人公が最初は女の子だったんですよ。話はそれで2時間ぐらいしていたんですが、途中で「男の子にしよう!」と言われまして。


酒井:
ポスターの一番手前に描かれているカカシという男の子がいるんですが、実はカカシちゃんという女の子だったんです。それで監督と女の子で来たプロットを見させていただいていたんですが、どうやら監督がBL好きであるというのが会話の端々からひしひしと、というか2時間のうち後半はほとんどBLの話だったような気がします。そこで私の中で何かが動きまして、「じゃあ男にしたら面白いのではないか?」ということで振ってみたら、二つ返事で「やります!」と。

川口:
やりたかったのね?

山本:
はい、本当はやりたかったです。

川口:
じゃあ作品持ってらっしゃいと(笑)

山本:
でもラノベっぽいのと言われていたので。

川口:
誰が言ったの、それ?まぁそれでBLの香りがぷんぷんするところで本人もやる気が上がってきたと。そこで大事なことは声優さんですね。21歳商業デビューにしては豪華な方が揃っていますよね。今回、声優ファンの方はいらっしゃいますか?(挙手があり)いますよね、そうですよね。アフレコに行っても最年少だもんね。

酒井:
そうですね、最初のアフレコで挨拶に行ったときは声優さんたちも驚かれていて全然認識してもらえず、僕の方ばかり見ていたので「すいません、こちらが監督です」と(笑)


川口:
アフレコは盛り上がったんですか?

酒井:
おかげさまでいいアフレコができました。今回、男3人で行くとなった時から共同生活という所もあるので距離感を大切にしたいというのがあったんですが、なにぶん、カカシ役の木村良平さん、有川役の豊永利行さん、シロ役の平川大輔さん、みなさんお忙しいのでスケジュールを押さえることができず、ようやく押さえられたんですが今度はアフレコブースが狭くて3人はいるとキチキチという所になって。

川口:
そこもBL臭がしますね。

酒井:
ラッキーだったなと。お三方に狭いブースに入っていただいたことで非常に親密な感じでできまして、ものすごい距離感のところでアフレコをさせていただくことができました。

山本:
カカシ役の木村さんはその日、足を折っていらして。

酒井:
「今朝やっちゃいました」みたいな感じで。

山本:
「足を折っても宇宙人と戦いに来ました」と言ってもらって、すごく嬉しかったです。

酒井:
僕は足を折った姿を見て「これで帰らせていただきます」といわれるのではないかと思い、ヒヤヒヤしました(笑) でも「やって帰ります」と力強い言葉をいただきました。

川口:
何時間ぐらいで録ったんですか?

酒井:
朝10時から始まって夜8時ぐらいまで、28分の作品で、3人録りなのに長くやらせていただきました。さらに、アフレコだけではなく、そのあとも特典となるドラマCDのアフレコもやってしまいまして、10時ぐらいになったという。

川口:
最低だよ!(笑)

酒井:
わかっていても「すみません!」といいながら、本当に体力の限界までやっていただきました。

川口:
特典CDってアニメイトさんで……あ、言っちゃいけなかったっけ?

酒井:
いえ、大丈夫なんですが最後に言おうかと思っていたので(笑) 実は「この男子、宇宙人と戦えます。」は11月18日にセルDVDが発売になりまして、そのアニメイトオリジナル特典としてドラマCDをつけさせていただくことになっています。その収録でどっぷりと時間を使ってしまいました。


川口:
足を折って来ていただいて、たっぷりと時間を使って取らせてもらったCD、これは貴重ですね。

酒井:
貴重な一品になると思います。

川口:
現場の指示出しはどうでしたか?プロの声優さんを使うのは初めて?

山本:
初めてです。声優さんに会うのも初めてで。

川口:
個人制作のときの声は?

山本:
ネット声優さんに頼んでいました。

川口:
ざっくりと、プロの声優さんはどうでした?

山本:
イケメンでした。

酒井:
そっち(笑) 素直な感想をいただきました。

川口:
音響監督はいても、指示出しをしないといけないじゃないですか。

山本:
指示出しは初めてだったので、曖昧なことばかり言っていました。「もっと剣道部っぽく」とか。

酒井:
木村良平さんには真摯に応えていただいて、「こんな感じですか?」と何度かテイクをいただきましたね。

山本:
「剣道部だけれど図書館で本を読むヤツみたいに演じてくれ」とか「甘く」とか「丸く」とかばかり言っていました。

川口:
……どうします、そんなこと言われたら。それで、通じました?

酒井:
なんとかどういうわけか伝わりまして、絶妙なニュアンスの声をいただきました。

川口:
今聞いていて、アフレコ行かなくてよかったと思いました(笑)

酒井:
おかげで28分ぐらいの作品ですがものすごいアフレコ時間になったのかなと。

川口:
熱と量はありますよね。感動したところでした。そして……音楽。なぜか志方あきこさんが担当するということで、ファンの方いらっしゃいますか?(挙手があり)やっぱりいらっしゃいますね。21歳の新人監督になぜ志方さんが音楽を提供してくださったのかということですね。

山本:
私が高校生の時からずっと好きで。

川口:
高校生の時って、2年ぐらい前のこと?

山本:
もうちょっと前ですね。ファンでずっと聞いていて「今回、頼めますか?」と。

酒井:
僕も曲をいただけるとは全く思っていなかったんですが、この作品を見ていただいて、新曲を書き下ろしますと言っていただいて。

(会場拍手)

酒井:
本当に素晴らしい方で、「透明ノスタルジア」という主題歌をいただいたことは作品のかなりのプラス材料になっているのではないかなと思います。

川口:
とりあえず、いいスタートですね。それでは山本蒼美さん、経歴をお伺いできればと思います。個人制作をしていらっしゃったわけですが、映像作家になるきっかけは?

山本:
きっかけは中高生の時に新海さんの「ほしのこえ」を見まして。

川口:
中高生ですよ!僕はあのとき30歳だったよ……。感動しましたか?

山本:
感動しました。中学の時にビデオ屋で借りて「すごくきれいだな」と思っていて、高校生のころに「彼女と彼女の猫」を見たんですよ。それで「自主制作アニメーション」というのがあることを知って、「いいな、面白いな」と思って。今でも監督の大ファンです。

川口:
新海さん、今日来てるから呼ぶね。

山本:
えっ!?

川口:
ウソですごめんなさい。酒井さん、どうですかそのへん。

酒井:
監督は「ほしのこえ」に大変興味があったということなんですが、山本監督と新海監督がなかなか直接会う機会がなかったので、「『ほしのこえ』のあの涙はどうやっているのか、新海監督に聞いておいてください!」と言われて、新海さんに隙を見てお話ししたりだとかしていましたね。

川口:
でも、うちに初めて来たとき、新海誠、いたよね。会議室で作業してた。

山本:
はい、まさかの。

川口:
写真撮らされちゃったもん。

酒井:
やっぱりそのときにはなかなか聞きづらかったということで。

川口:
文字通り新海チルドレンというわけですよね。10年経ちまして、個人制作ではうちにも何名かいらっしゃったし、「センコロール」の宇木さんもいらっしゃる。そこから何年か経って、中高生という多感な時期に新海誠の影響を受け、そしてデビューする最初の方がこの方、これは結構すごいことですよね。

酒井:
運命的な感じがしますよね。

川口:
よくぞうちと組んでくださいました。

酒井:
誰かの「ラノベっぽいものを作りたいと言っている」というウワサのおかげですね。

川口:
呼んでこい、その人!いい人だ!(笑) と、悠長なことをしている間に時間が来てしまいました。

酒井:
「この男子、宇宙人と戦えます。」ですが、業界で初めての試みとしてアニメイトのポイント景品としてデビューを飾らせていただきまして、おかげさまで大変評判をいただきまして11月18日にセルDVDも発売となりますのでお手にとっていただければと思っています。

山本:
今回が初めての商業作品だったので、大変なこととかあって、汗と涙とか血とかにじんでますけれど頑張って完成させたので、色んな人に見ていただきたいです。

川口:
みなさん、本当朝から集まっていただいて嬉しいです。ありがとうございました。山本蒼美、これから経験を重ねて、才能があるので確実に伸びていくと思います。どうか応援してあげてください。今後ともよろしくお願いします。今日はありがとうございました。

イベント終了後、「この男子、宇宙人と戦えます。」のDVDが2名にプレゼントされ、山本監督がサインを入れていました。


今回、マチ★アソビで追悼上映会もあったようにアニメ業界のビッグネームだった出﨑統監督が亡くなり、あるいは優れたアニメーターとして知られていた金田伊功さんが亡くなりしている中で、このように後から新しい才能が出てきたのはとても喜ばしいことです。「この男子、宇宙人と戦えます。」はまだ知名度の高い作品とは言えませんが、新海誠監督といえども「ほしのこえ」制作当時から世界に名を轟かせていたわけではありません。新進気鋭の21歳監督の登場は、少なからずアニメ業界に風を起こしてくれるのではないでしょうか。

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in 取材,   アニメ, Posted by logc_nt