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「目的地に到達する方法を永遠に変えた製品」といわれる世界初の実用車載ナビゲーションシステム「Etak Navigator」とは?


GPSが一般向けになる約10年前の1985年、世界初の実用車載ナビゲーション「Etak Navigator」が登場し、世間をにぎわせました。当時としては画期的だったこのシステムがどのようなものだったのかについて、地図専門家のジェームズ・キリック氏が解説しました。

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これが「Etak Navigator」の写真です。


Etak Navigatorが登場した1985年当時、ナビゲーション・システムには「推測航法」と呼ばれる技術が使われていました。推測航法は、移動距離と進行方向をチェックするセンサーを使うものでしたが、遠くに行けば行くほど誤差が大きくなるという欠点がありました。

この問題を解決するため、アメリカのベンダー・Etakは「拡張推測航法」を発明しました。これは、ナビゲーション・センサーが示す位置を、地形学的に正しい電子地図に一致させるプロセスを利用したもので、車両が曲がるたびに「道路を走行している」と仮定し、その時点で自分の位置を道路の正しいと思われる位置に自動で調整して、センサーの誤差をリセットするものでした。この技術は後にすべてのナビゲーションアプリに採用され、21世紀に入っても使われています。


Etakの2つ目の重要な発明は、「ヘディング・アップ」と呼ばれる動く地図表示でした。つまり、車両がナビゲーション画面の中央に留まり、地図が車両を中心に移動したり回転したりするものです。この概念はスマートフォンでも地図が見られるようになった時代では一般的ですが、当時は画期的なものだったそうです。

また、住所、通り、交差点から目的地を入力でき、自宅や職場といった一般的な場所を保存することも可能な住所検索システムも備えていました。


Etak Navigatorには5つの主要コンポーネントがありました。1つ目はオシロスコープにあるようなベクトルCRTディスプレイで、2つ目は特製のカセットテープドライブです。Etak Navigatorのナビゲーションアプリとデータはカセットテープに保存されていたのですが、カセットテープ・ドライブはテープを非常に高速で読み取るために特別に開発されたものでした。一般の音楽プレーヤーでは1秒間に約5cmの速度で読み込まれるところ、Etak Navigatorのカセットテープは1秒間に約200cmの速度で読み込まれていたそうです。

3つ目は車両のリアウインドウに取り付けられた電子コンパス。走行距離を測定し、コンパスからの方位情報を補強する磁気車輪センサーと、CPUとマザーボードが入った靴箱ほどの大きさの金属製の箱もありました。

Etak Navigatorの当初の価格は1395ドルでした。これは、2024年時点の約4000ドル(約62万円)に相当します。また、経験豊富な技術者でも取り付けには約4時間かかり、本体の費用だけでなく、取り付け費用も高かったそうです。


価格に加え、Etak Navigatorには技術的に大きな制約がありました。当時、政府は軍以外が100メートル以上の精度を得るシステムを作ることを禁じていて、それを回避するGPSレシーバーはまだ大型で高価でした。

さらに、大容量の交換可能なメディアもなく、十分な情報を保存できないフロッピーディスクと、真新しく、コストがかかりすぎるCD-ROMのどちらも採用できなかったとのこと。また、車輪センサーとコンパスだけで航法誤差を克服することも大きな課題でした。

最も大きな課題だったのは傾斜地への対応です。地図には標高情報がないため、坂道を上ったり下ったりする場合、道路を走った距離と地図を走った距離が一致せず、システムに誤差が生じていました。そのため、Etakのエンジニアは流体と静電容量センサーを使った特別な傾斜計を発明して搭載したとのことです。


なお、キリック氏によると、「Etak」という名前はポリネシア航海術で基準として用いられる島から取られたとのこと。昔のポリネシア人は星と海のうねりによって方位を把握していましたが、広大な海の中ではほんの1度でもずれると目的地を見失う可能性がありました。そこで、航海士たちは目に見える島々を基準にし、「自分たちの船は静止しており、島々が自分たちに向かってくる」と考え、通り過ぎる島々を使って距離を推定していたそうです。

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in ハードウェア, Posted by log1p_kr

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