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「異物除去」にかける博士の情熱、人々が飲み込んだありとあらゆる異物を集めた世にも奇妙なコレクション


19世紀末から20世紀前半にかけて活躍した喉頭科医のChevalier Jackson博士(1865-1958)は、子どもなどが飲み込んだり吸い込んだりしてしまった異物を取り除く安全な手術法の開発に尽力し、当時は命にかかわる事態に発展することも多かった「誤飲」から多くの人々の命を救い、「史上もっとも偉大な喉頭科医の一人」とすら言われる人物です。

そのJackson博士が患者の気道や食道から除去したありとあらゆる異物2000点以上を保存した世にも奇妙なコレクションが、アメリカ・フィラデルフィアにある博物館に展示されているそうです。

詳細は以下から。
Swallowed Objects That Went Straight Into History - NYTimes.com

Jackson博士の「異物コレクション」は、アメリカ最古の医学会College of Physicians of Philadelphiaの博物館Mutter Museumに収蔵されています。この奇妙なコレクションとJackson博士その人に言いようもなく惹かれるものを感じ、のめりこむように調査してしまったというロードアイランド大学の英語学の教授Mary Cappello教授による本「Swallow」がNew Press社から出版されていて、これに合わせ博物館では2011年2月からCappello教授の監修のもと展示替えを行い、より見ごたえのある内容となっているとのこと。


3歳児が飲み込んだオモチャの犬、生後9カ月の乳児が飲み込んだ安全ピン、4歳児が飲み込んだオモチャの双眼鏡のX線撮像。


あらゆる手術の死亡率が高く、麻酔学も発達していなかった19世紀後半、人々の気道や食道から異物を取り除く手術をすすんで行うような医師は少なかったのですが、Jackson博士が執刀した異物除去手術は95%と高い生存率を誇りました。それまでの医師たちが患者の口の外からランプで照らして内視鏡を使っていたのに対し、Jacksson博士は小さなランプを咽喉へ挿入する棒の先につけた自作のランプ付き内視鏡を使用するなど、より安全で確実な手術法の開発に尽力したほか、来る日も来る日もピーナツを鉗子(かんし)で砕いて繊細な力加減をマスターしたり、マネキンで手術の訓練を行うなど、自らの技術を磨くことにも時間を惜しまなかったそうです。

また、Jackson博士は「異物誤飲」の危険性について公衆や医療関係者の意識を高めることにも尽力し、「何もかも、どんなによくかんでもかみすぎということはありません。ミルクだってかんでから飲みなさい!」と生涯口を酸っぱくして提唱し続けたそうです。「博士の手にかかれば臼歯(きゅうし)が生えそろう前の子どもにピーナツを食べさせた親は、罰金を取られていたでしょう」とCappello教授は語っています。


多くの命を救い医学の発展に貢献したJackson博士ですが、同時代人には「孤独な変人」と見られていた部分もあったとのこと。しかし、多くの場合麻酔のない状況で小さな子どもたちをなだめすかして安心させ、じっと落ち着かせて異物摘出手術を成功させてきた博士は、実は非常に対人スキルが高く愛情と思いやりに満ちた人物だったのではとも考えられます。

当時のアメリカでは石けん作りに使われる苛性(かせい)ソーダが一般家庭の台所によく置かれていて、見た目が砂糖に似ているため子どもによる誤飲が後を絶ちませんでした。苛性ソーダを飲み込むと食道がやけどを起こしたようにただれ、何も飲み込むことができなくなってしまいます。Jackson博士は苛性ソーダを含む毒物・劇物に警告表示を義務付ける法案の議会通過のためロビー活動を行ったほか、のどに炎症がある子どもの食道を拡張する方法として長いチューブを飲み込む治療法を開発し、「サーカスのナイフ飲み芸人になったと想像してごらん、ほかの子どもたちにうらやましがられるよ」と子どもたちを励ましたそうです。

小さいころには体が小さくいじめられっこで、目隠しをされて炭鉱へ投げ込まれ気絶し、死にかけたこともあるというJackson博士。大人になり医師になった後は「人々の命を救うことで、自分を救っていたという部分もあるのではないでしょうか」とCappello教授は語っています。


周囲に変人と思われつつも実は温かいハートの持ち主であったかもしれないJackson博士ですが、手術で摘出した異物の収集・保存には「変人」と呼ぶにふさわしい、並々ならぬこだわりを見せたとのこと。

25セント硬貨を飲み込んでしまった男の子の父親が「硬貨を返さないと殺すぞ」とJackson博士を脅した時にも、博士は「気道と食道から摘出されたすべての異物は、未来の子どもたちを救うため、医学の発展のための学術的サンプルとして収集されます」と断固としてゆずりませんでした。この父親が八つ当たりして男の子を殴り骨折させると、あきれ果てた博士はこの家族に50セントを与えたそうですが、それでも実際に摘出された25セント硬貨を返すことはなかったそうです。

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in メモ, Posted by logc_nt

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