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「神のタバコ」の煙でガンが治ると主張、副流煙を患者に吹きかけているインドネシアの診療所


以前1日に40本のタバコを吸うへビースモーカーな2歳児が登場して話題となったインドネシアに、「神のタバコ」の副流煙でガンをはじめとした病気を治療している診療所が存在します。

受動喫煙が子どものADHDを引き起こす可能性が指摘されるなど、タバコの副流煙の有害性について指摘された事例は数多く存在しますが、一体なぜそんな副流煙が治療薬として使われているのでしょうか。

「神のタバコ」の詳細と、インドネシアを取り巻くタバコ事情は以下から。Indonesian clinic touts smoking as cancer cure - Yahoo! News

PhotoBlog - Can tobacco cigarettes cure cancer?

インドネシア・ジャカルタの診療所・Griya Balur clinicでは、タバコがガンの治療に役立つ手段だとして公然と使用し、ガンや自閉症などの病気はタバコで治すことができると主張しています。


このクリニックをかかりつけにしていて、数十年間タバコを吸い続けたために肺気腫を患っているアメリカなまりの言葉を話す女性は、「私はタバコが恋しかったのよ」と語っています。タバコは万病の元であるかのような情報が多くある国では、このような治療法は到底認められるものではありません。

しかし、先進国でタバコの規制が強まり、喫煙者が減っている現在、タバコ産業にとってみれば、インドネシアは非常に重要な市場です。古くからタバコを吸う習慣があり、取り締まりも厳しくなく、政府の財源のうち年間約70億ドル(約5895億円)がタバコ税でまかなわれ、タバコ産業が大きな雇用を生み出している状況なので、Griya Balurクリニックのような方針の診療所があっても、特に批判を受けることはないようです。

さきほど話題にあがった肺気腫の女性に対して行われる「治療」は、ガンを引き起こす遊離基をナノテクノロジーによって取り除いた「神のたばこ」から立ち上る煙をチューブを使って患者の肺に吹き込み、さらにアスピリン(アセチルサリチル酸)の入ったカップを右目に当てた状態で耳と鼻にもタバコの煙を注入するという内容です。

記事中の女性とは別の患者に施された治療。カップのようなものを目に当てた状態の患者に、医師とおぼしき人物がタバコの煙を吹きかけています。


クリニックの創設者であるGretha Zahar医師は、過去10年にわたって6万人もの患者をこのタバコ療法で治療してきたと語ります。

ジャワ島のバンドンにあるPadjadjaran大学でナノ科学についての博士号を取得したZahar医師は、タバコの煙を使って体外に水銀を排出することでガンを含むすべての病気が治り、しかもアンチエイジング効果も期待できると確信。「水銀はすべての病気の原因となります。私のクリニックで扱っている「神のタバコ」は、体内から水銀を排出してくれるのです」とZahar医師は説明します。

Zahar医師がSNS上で公開しているプロフィールページ。確かに「神のタバコ」について書かれていて、彼女は自身のことを「スピリチュアルな観点から科学的研究をしている女性」だと紹介しています。

DR Gretha Pramutadi Zahar's Page - SuperLife



彼女は「神のタバコ」の公式ウェブサイト上で「西側の医学者」たちはすでに強大な力を築いているため対抗することなどできないと発言。また、彼女が提唱している理論について臨床実験を行ったり、雑誌に論文を掲載して同業者の指摘を受ける必要などないとし、また「西側の医学者」たちと裁判で争う資金もないと発言していたそうです。

彼女が提唱しているタバコ療法で、冒頭に載せたものとはまた異なる内容の治療。ぬれた布とアルミホイルで体を覆いつくしています。


普通の診療所なら注射器や薬品が置かれるところに並べられるタバコ。


日本や米国などでは、タバコには中毒性があり、健康を害するものだということを証明する研究データが山のように発表されていますが、インドネシアの人々の間ではタバコ会社の積極的な販売戦略に後押しされる形で喫煙率は増加しており、しかも若年層の喫煙も増えています。

ジャワ中部の憲法裁判所では、タバコの葉に中毒性があると規定する法律に対してタバコ賛成派の農家や議員たちが異議を申し立てています。ジャワ東部にあるBrawijaya大学のAris Widodo教授は、法廷で「喫煙によって死に至ったという事例は聞いたことがない」と証言、加えて「むしろ喫煙は精神を安定させて集中力を高め、バリウムのような効果な薬剤の代わりとなるし安上がりだ」として、タバコの有益性についても主張しました。

インドネシアではタバコは20本入りで1箱およそ1ドル(約84円)が相場で、東南アジア諸国の貧しい家庭では、タバコ代は食費に次いで家計を圧迫する材料となっています。

World Health Organisationによると、インドネシアの喫煙率は40年前と比較して6倍となっていて、喫煙が起因となって死亡しているのは年間40万人、受動喫煙によって死亡している人は年間2万5000人に上るとも言われており、WHOのたばこ規制枠組み条約に加盟していないアジアで唯一の国でもあります。

タバコの健康被害への危機感がなかなか浸透しない背景には、大手タバコ企業の根回しがあるとも言われています。2009年にタバコに対する規制法案を審議している際、タバコの中毒性について記した条文が突然削除されて問題となりました。政府とタバコ企業との癒着が疑われたものの、保健省職員のBudi Sampurno氏はタバコ企業とのつながりを否定、その後中毒性に関する条文は手違いで削除されただけなので再度追記されたと報告されました。しかし「同様のやりとりが1992年の規制検討の際にも行われていたため、タバコ企業が裏から手を回したのはほぼ間違いがない」と、民主党の立法委員でタバコ規制派のHakim Sorimuda Pohan氏は指摘しています。

タバコと生活、そして政治が強く結びついているインドネシアですが、2010年にはタバコの規制を強める動きが加速し、タバコ税も2011年1月から引き上げられたと伝えられています。

インドネシア、脱・喫煙大国へ : 健康ニュース : yomiDr./ヨミドクター(読売新聞)

喫煙者への風当たりが比較的他国と比べて緩やかなインドネシアだからこそ、Zahar医師の提唱するタバコ治療法がまかり通ってしまっているように思われてなりませんが、果たして今後インドネシアの喫煙事情が米国基準に寄っていくことで何らかの改善は見られるのでしょうか……

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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