取材

これからは人を軸に情報が流れるようになる、佐々木俊尚が語る「次世代テレビ」「脱テレビデバイス」「ミドルメディア化」


東京国際アニメ祭2010秋では、佐々木俊尚さんが「動画のメディア空間はどう変わるか」をテーマとした基調講演を行いました。

佐々木さんがこの日のシンポジウムのキーワードとしてあげたのは「次世代テレビ」「脱テレビデバイス」「ミドルメディア化」の3つ。「次世代テレビ」の例としては、Googleが発売した「Google TV」が挙げられました。「脱テレビデバイス」ではiPadなど、今までのテレビのような空間ではないものが挙げられました。そして「ミドルメディア化」というのは、今までのテレビというマスコミとは違う形で情報が現れるようになってきたことを差しています。

マスメディアからソーシャルメディアの時代になって、情報の流れ方が変化すると語った佐々木さんの講演内容は以下から。
講演を行った佐々木俊尚さん。


◆次世代テレビ「Google TV」
佐々木さんがまず語ったのは「次世代テレビ」について。Googleがテレビ業界への進出を明らかにしたのはだいぶ前で、その売り文句は「検索とテレビを融合しましょう」というもの。SONYから発売された製品を見た佐々木さんの感想は「なんだかAppleの製品みたいな感じ」というもの。まだ自身では触っていないそうですが、噂によると作りはいいとのこと。

Googleといえば検索エンジンビジネスで年間2兆円を超える売り上げを出しており、たとえばオープンソースOSのAndroidは一生懸命配布しても一銭も儲からず、Googleマップも利用するのにお金がかかるわけではありません。Googleがこのサービスを提供しているのかという理由を佐々木さんは「自分たちが広告で儲ける場所をだんだん増やしていくというのがGoogleの戦略なのだ」と説明します。


Google TVのウリは「検索バーを使ってシームレスに動画検索が可能」「Chromeブラウザを搭載」「Androidマーケットに対応」の3つ。佐々木さんはこのうち前者2つを「そんなに革命的なの?と思いませんか」とバッサリ切り捨てつつも、3つめの「Androidマーケットに対応」については、iPhoneでアプリを購入したときにすぐにその場で動くのと同じように、テレビでもすぐにアプリが動くようになるのはかなり大きいと説明。そして、Googleの狙いとしては、一つは検索エンジンをテレビに持ち込むことで現在2兆円の検索エンジン市場を何十兆円というテレビ広告市場と繋がること、もう一つはテレビをアプリケーション化して、今までのテレビの見方とは違う新しい可能性を切り開くことだと語りました。

例えば、日本の携帯電話はガラケーと呼ばれ、使い方はほとんどメーカーとキャリアに決められていましたが、iPhoneはアプリを好きに追加・削除でき、人によって違う使い方ができるものでしたが、「テレビもアプリケーション化すれば同じようなことが実現する可能性はあるのではないか」と佐々木さんは語り、Twitterとテレビを連動させるアプリの仕組みとして「ANOBAR」という機器を例示しました。

コレがANOBAR。ドワンゴの創業者・森さんが退職後に開発した機械で、テレビの横に置いてネットに接続すると、2chの実況板の内容をリアルタイムに表示してくれる装置なのだそうです。佐々木さんはこれを森さんから借りて使っており、かなり楽しんでいるとのことでした。


こんな感じで実況の様子が表示されるそうです。かなり面白そう。


ちなみに、佐々木さんは昨年「2011年新聞テレビ消滅」という本を書きましたが、アメリカではずっと下がり続けていた視聴率が今年は若干上がったのだそうです。この原因は「スーパーボウルが面白かった」「レディー・ガガによる効果だ」など様々な説があり、誰も実証できていないのですが、説得力のあるものとして「TwitterやFacebookでみんながリアルタイムに話題にしているから見るようになった」説があるそうです。

テレビをアプリケーション化することのメリットとして佐々木さんが挙げたのは「動画コンテンツをアプリ化してしまえば番組ごとに見せ方を変えられるのではないか」ということ。この番組はこういう風に見て欲しいというスタイルを、制作側がコントロールできるようになるのではないかということだそうです。

もう一つのメリットは、動画視聴のインターフェイスを改善できるのではないかということでした。現状、テレビのリモコンはお仕着せのものを使うしかないですが、アプリケーションのマーケットができれば、使いやすさという点でインターフェイスにも注目が集まるのではないかと佐々木さんは語りました。

AppleがiPodで音楽配信において勝利を収めたのは、プレーヤーであるiPodと楽曲販売サイトのiTunesストア、そしてiTuneというアプリケーションという3つが気持ちよく連動できていることが理由で、例えば佐々木さんがかつて触ったネットワークウォークマンはあまりの使いづらさに絶対売れないと確信を持っていたそうです。また、NHKオンデマンドもいい番組は蓄積されているものの、佐々木さん自身使っていて検索がろくに動かなかったりして難儀しているそうで、インターフェイスの重要性を実感している様子でした。

ここで佐々木さんが例に出したのはHDDレコーダーの「SPIDER」。PTPという日本の小さな会社で作られている製品で、民放全局とNHKの番組がまるごと一週間録画できるような機器で、一週間を超えると古い方から削られていくものの、常に一週間分の番組を遡って見られるんだそうです。それだけなら大手メーカーでも作られているのですが、SPIDERのすごいところはインターフェイスにあり、例えば2008年に放送されて話題になった「25年後の磯野家を実写で再現した江崎グリコのCM」が気になるとき、旧来のインターフェイスであれば1日中テレビに貼り付いていないとどの番組のどこでこのCMが入ったかわかりませんが、SPIDERなら「グリコ」で検索すると一週間分のCM一覧が表示されるので、そこから「サザエさんその後」というものを選べばCMが見られる、という仕組みになっているのだそうです。

野村総研の調べによれば、レコーダー使用者の8割はCMをスキップしているそうですが、それを検索して探し出せるようになると、面白いものを共有できたり、タレントごとにチェックしたりも可能なので、「今までのようにテレビの垂れ流しを楽しむのとは違う形で新しいテレビの視聴空間を作り出すことが十分に可能になる」と佐々木さんはアプリケーション化の最大のパワーを説明してくれました。

Appleが9月に新型「Apple TV」を発表しましたが、佐々木さんはいずれAppleストアが搭載されるのではないかと予想。どんどんテレビは全体としてアプリケーション化していき、番組コンテンツと視聴者は垂れ流しで出会うのではなく、アプリ経由に変わる可能性は十分にあるのではないか、とまとめました。

◆脱テレビデバイス
佐々木さんは古いAppleTVを持っているそうです。できることはビデオオンデマンドのiTunes版のようなもので、購入した番組をその場で視聴できるというものですが、PC内に購入したコンテンツがあれば無線経由でiPhoneなりテレビなりで視聴できるという「AirPlay」機能が搭載されている点を佐々木さんは「面白い」と評価。1度購入したコンテンツはいろいろな場所で見られる方がイイというワンコンテンツマルチユースが世の流れとしてあるわけですが、今後は動画業界全体でも推進していく鮑鴻になるのは間違いないそうです。


テレビをインターネット化する「IPTV」は光回線(FTTH)経由でリビングのテレビに番組を配信して、そこでコンテンツを見るというモデルで考えられていますが、タブレットやスマートフォンの登場と、高速ワイヤレス回線の登場によって、「タブレット型IPTVって十分ありえるんじゃないか」と佐々木さんは展望を語りました。アナログ停波とデジタル化が終わればその開いた帯域は次世代ワイヤレスブロードバンド(LTE)が実用化される可能性が高く、するとiPhoneやAndroidに直接光ファイバー並の速度で動画を遅れるようになるので、IPTVはワイヤレス中心になることを考えて話を進めなければいけなません。佐々木さんとしては、最終的にはタブレットやテレビ、PCなどの機器をAirPlayのようなもので連携させる仕組みが完成し、そこで動画コンテンツを見るという形に修練していくんじゃないかという気がしているとのこと。

◆情報社会の「キュレーター」
続いて、佐々木さんはデバイスがマルチ化する話に触れました。テレビがアプリケーション化すると、番組コンテンツがシームレスにあちこちから流れ込むようになり、どうやって良いコンテンツを選ぶかが問題になってきます。

昔のマスメディア時代は大きな川があり、その川上から制作側がコンテンツを流し、見る人間は河口で口を開けて待っているというイメージ。そのため、代理店の仕事はいかに良い川の枠を取ってくるかということだったわけですが、今はこれが崩壊しつつあるというわけです。


現状はこうだ、と佐々木さんが出した写真がコレ。


まるで湿地帯で、どちらが上流なのか下流なのかわからず、全体の俯瞰も困難。ある分野の人たちにコンテンツ情報を投げ込みたいというときには湿地帯の中に分け入らなくてはなりません。一方で、湿地帯に住んでいる人はマスメディアの情報なんてどうでもよいという状態です。そのため、コンテンツ制作側はこの細分化されたところにいかに情報を投げ込むのかというのが重要な課題になっているのだそうです。

そこで、どうやって情報が流れているのかというと「人を軸にしている」と佐々木さんは語ります。かつては新聞やテレビという装置を経由していた情報が、ソーシャルメディア時代はウェブという装置経由で流れています。しかし、mixiやTwitterに情報を流せばユーザー全員にたどり着くのかというとそうではなく、人間同士が情報を渡し合っていて、「この人が投げた情報なら信用できる」というように世の中が変わってきているそうです。

インターネットには膨大の情報があるため、自分で位置から拾い上げるのは非常に困難。しかし、それをある程度仕分けして「これは面白いですよ」と紹介してくれる人がいるわけです。世界中に1億の情報があり、その仕分け人が1万人いるのなら、1億から探すよりも1万人から良さそうな人を選ぶ方が楽で、ここで情報はフィルタリングされています。この、情報収集や選別、意味づけを共有することを「キュレーション」と佐々木さんは呼んでいます。


そして、膨大な量の情報からある種のコンテクストに沿って情報をフィルタリングする人を「キュレーター」と表現しました。


佐々木さんはここ半年ぐらい、Twitter上で意図的にキュレーションをしているそうです。自身でGoogleリーダーに600~700のフィードを登録しており、1日に流れてくる1500以上の見出しに全て目を通した上で、100本弱ぐらいの記事を選んで読み、さらにその中から「面白そう」「今のウェブの流れから判断して、読んでおいた方がいい」というものをツイートしてきたそうで、これに1日300~400のリプライがあるそうです。Twitter以外に、例えば食べログのカリスマレビュアーも同様にキュレーターであり、その人をフォローしている人たちが「あの人がオススメしているのだから」とお店に行くのであれば、それも一種のキュレーターになるわけです。

そして、おそらく動画の世界も今までのようなメディアの番組表主体ではない、キュレーション主体で選ばれる方向に動いてくのではないか、と佐々木さんは語りました。

◆情報の真偽と人の評判


最後に、佐々木さんが大事な話として題材にしたのが「情報の真偽と人の評判」でした。ネットで正しい情報なのかどうかを調べるのはとても困難で、例え話として「小沢一郞問題で検察と民主党は密約をしていた」みたいな話があったとして、昨日からブログを始めたような人や、Twitterのフォロワーが1桁というような人が書いていても誰も信用しません。しかし、ずっと政治系の話題を扱うブロガーで、何年も書き続けてアーカイブも蓄積されているような人だと、それもあるかもしれないと判断する可能性があります。つまり、ネット世界は情報の真偽を見分けるのが非常に困難ながら、ブロガーやTwitterを使っている個人の評判については可視化されている世界だ、ということです。

佐々木さんのような有名人であれば、検索をかけるだけで本人のブログやTwitter、インタビュー記事が出てくるため、「以前といってることが違うじゃないですか」と言われることもあるそうです。しかし、テレビでは番組がアーカイブされずに消えていくため、そういうのがありません。その点で、ネットは個人の評判が可視化されていて、ずっと統一したことを言い続けていれば評判が固定化されることもあるので、キュレーションのような、人を軸にして情報が流れるという仕組みが成り立っているのだ、と佐々木さんはまとめました。

キュレーションによって自分にとって面白いものを、特定個人をフォローすることで得るようになるというビジョンについて、佐々木さんはかなり遠いビジョンなのですぐに実現するとは思わないと前置きした上で、3年後、5年後にはおそらくこの内容が実現する可能性は極めて高いのではないかと語りました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
初開催の「東京国際アニメ祭 2010秋」、出展全ブースの様子を一覧紹介 - GIGAZINE

グーグルは今のままでは日本人の人生を変えることはできない - GIGAZINE

政治家のウェブ上の風評をクリーンにするサービスが登場、無料の「Web身体検査」も - GIGAZINE

in 取材, Posted by logc_nt

You can read the machine translated English article here.