取材

一切手を使わずに作ったフィギュアや事実上の造形処女作など、異色作ぞろいの「ワンダーショウケース」


「ワンダーショウケース」公式サイトの「マニフェスト」にある「造形の善し悪しではなく、キャラクターに人気がなければ見向きもされない。逆にキャラクターに人気があれば、ヘロヘロの出来のものでも飛ぶように売れていく」という言葉に代表されるように、ワンダーフェスティバルはイベントとして大きくなっていった一方で、「圧倒的なものを作りたい!」というスピリッツを胸に抱いている人たちが、森のなかに隠された木のように埋もれていってしまうという状況があるということ。

そこでガレージキットをとりまく状況の硬直化を防ぐために1998年に設立されたのが、新進ガレージキット作家の育成を目的とした「ワンダーショウケース」。今回選出されたのは3人の作家で、それぞれの経歴はかなり特殊。モデル立ちが一般的な美少女フィギュアにあえて大胆な構図を持ち込んだぎあぎあ氏や、自分の手を一切使わず、3DCGソフトとそれで作ったデータを出力することで作品を完成させたフランス人作家のWalter氏、そしてプロの漫画家を目指しつつ、レンタルショーケースを利用した美少女フィギュア系ガレージキットのモデルフィニッシャー(製作代行業)をしていた楠 正成氏。一般的なフィギュア製作の枠に留まらない経歴の作家の選出から、ワンダーフェスティバルが今求めているものが見えてきたような気がしました。

詳細は以下から。Wonder Showcase Officail Web Site

ぎあぎあ氏による「おとぎ銃士 赤ずきん」のグレーテル(ワンフェス以降の一般小売価格:税込12000円)


フィギュアといえば「グラビア立ち」(「気をつけ」の直立姿勢からちょっとだけリラックスしたポーズ)がほとんどですが、この作品は型破りかつ大胆なポージングです。


もちろんモデル立ちが主流なのには理由があり、「複製する際のシリコーンゴム型が巨大になってしまうため、ダイナミックなポーズを取らせると利益率が悪くなる」というコスト面の問題と、「ダイナミックなポーズの美少女フィギュアはグラビア立ちのものと比べると売れ行きが悪い」というこれまでの美少女フィギュア史に裏打ちされた、経験則に基づく結果があるとのこと。


しかも、この構図は劇中のシーンをそのままフィギュア化したのではなく、「このキャラクターならばこういう姿が似合うのではないか」といった発想で作られたというのだから驚きです。


「ワンダーショウケース」レーベルプロデューサーで模型文化ライターのあさのまさひこ氏によれば、「(ぎあぎあ氏のような)『フィギュア造形経験がないわけでもない』といった程度の駆け出しが、グレーテルのようなダイナミックな空間構成に基づく作品と向き合うのは極めて困難だ」といいます。業界の主流にとらわれない自由な発想の作品が、これからのワンフェスには求められる作り手の姿勢のひとつ、ということなのかもしれません。


続いてWalter氏による「AMEISE ROBOTIC F.360 DELUXE」(ワンフェス以降の一般小売価格:10000円)オリジナルキャラクターです。


東京に在住しながらバンドデシネ(ベルギーやフランスを中心とした地域のコミック)のカラーリスト(漫画に彩色をする職業)を生業としつつ、仕事の傍らで3DCGソフトを用い趣味的にオリジナルデザインの3Dデータを作成していたところ、それを立体出力してくれる業者を見つけたためガレージキット化に至ったという、かなり特殊な経緯で作家活動を開始したとのこと。


温かみと未来感という相反する魅力を同時に体現している造形。これが一切手を使わず、データ出力だけで作られたとはなかなか信じられません。ちなみに、外国人作家が選出されたのは今回が初めてということです。


「手づくり」という言葉はどんな分野でも重要視される要素のひとつですが、技術の発達した今、自分の手を使うことに固執する必要はなく、結果が重要なのではないかと、特に何かを作っている人に考えさせるものとなっているように感じました。


最後に、楠 正成氏の「デュアオラ」(ワンフェス以降の一般小売価格:税込8800円)これもオリジナルキャラクターです。


プロの漫画家を目指しつつ、レンタルショーケースを利用した美少女フィギュア系ガレージキットのモデルフィニッシャー(製作代行業)として模型製作のセンスと技術を向上させていたという経歴を持ち、今回の「デュアオラ」は立体化を見越した上で自身でデザインし、原型製作も自ら行っています。


絵描きとしての自分と造形家としての自分を両立させ、1人ですべての作業を完結させています。モデルフィニッシャーというのはあくまでフィギュアの仕上げ担当であるため、この作品が事実上のフィギュア造形処女作というのがなかなか信じられない出来栄え。


あさのまさひこ氏曰く、「その手のファンにはたまらない微妙なニュアンス」が多く盛り込まれているそうです。それはともかくとして、非常にかわいらしく、また狙った造形であることはおそらく誰が見ても明らか。その「狙い」を過不足なく立体化する手腕が選出の決め手だったものと思われます。


選出された3作品中2つがオリジナルキャラクターで、また「グレーテル」も造形は素晴らしいもののキャラクターとしては今主流にあると言えないのが正直なところ。キャラクターの人気にとらわれない選出と、技術力や製作方法といった魅力が目にも明らかなラインナップに、ワンダーフェスティバルの目指す未来が少し垣間見えたように思いました。

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in 取材, Posted by darkhorse_log

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