インタビュー

ハリウッド超大作映画のプロデューサーは一体何をしているのか、「アバター」プロデューサーのジョン・ランドーに聞いてみた


ハリウッドの超大作映画というと有名映画監督の印象が強く、映画の製作責任者であるプロデューサーの役割についてはほとんど語られていません。彼らは映画を作るにあたり、どのような仕事をしているのでしょうか?

というわけで、12月23日公開の超大作3DSF映画「アバター」のプロデューサーであるジョン・ランドー氏にインタビューすることができたので、「アバター」という映画の製作についての話題から始まり、次回作と目されている「BATTLE ANGEL」(木城ゆきと作「銃夢」を原作とした映画)について、さらにジェームズ・キャメロンの映画作りに関することまで、いろいろと突っ込んだところを率直に聞いてみました。

インタビューは以下から。映画「アバター」オフィシャルサイト
http://movies.foxjapan.com/avatar/

◆ジョン・ランドー(JON LANDAU)氏のプロフィール


ファミリー・コメディのヒット作「ミクロキッズ」(89)、ウォーレン・ベイティ主演のアクション映画「ディック・トレイシー」(90)の共同製作を手がけ、1990年代初めには20世紀フォックス映画のフィーチャー・フィルム・プロダクションでエグゼクティブ・バイス・プレジデントを務める。その後はライトストーム・エンターテインメントでジェームズ・キャメロン監督の超大作「タイタニック」(97)やスティーヴン・ソダーバーグ監督のSF映画「ソラリス」(02)の製作を担当した。複雑極まりない最新の視覚効果技術をよく理解し、優れたクリエイティブな人材と協力し合いながら、多くの大作映画で重要な役割を果たしている。また、キャメロンとともに3D映画の撮影やデジタル大量配給を可能にするようなデジタル製作ツールを開発。さらに最新の“バーチャル・プロダクション”技術を使い、製作と視覚効果プロセスを合理化するため、マイクロソフトとそのパートナーたちとも密に協力し合っている。

これが「アバター」のスタッフ一覧。ジョン・ランドー氏はどこにクレジットされているかと言うと……。


ジェームズ・キャメロン監督と並んで名前が書かれています。「アバター」の製作にあたって、どのくらいの位置にいる人なのかが分かります。


インタビューはヒルトン大阪で行われました。以下がインタビュー本編です。


GIGAZINE(以下、G):あなたは1997年に公開され約18億5000万ドルという映画史上最高の世界興収を記録したジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」でもプロデューサーであり、今回の「アバター」でもプロデューサーという役職であり、そして次回以降の作品として、日本のマンガ「銃夢」を原作とした「BATTLE ANGEL」でもジェームズ・キャメロン監督&プロジューサー「ジョン・ランドー」のコンビで挑もうとしています。しかし、普通の日本人は映画のプロデューサーがどういった仕事をするものなのかをあまりよく知りません。具体的にどういう仕事を今回のアバターで行ったのかを説明していただけますか?

ジョン・ランドー(以下、ジョンと省略):製作全体を指揮するのが私の役割です。実際に伝えようとするストーリーのゴールを常に監視しています。物質的な意味での製作から製作後の過程におけるまで、視覚効果、マーケティング、ビデオゲームやおもちゃなどの販促物のライセンシーも含めて、すべてに関わっています。


G:まず映画の内容から聞かせて下さい。劇中で出てくる「エイワ」というのを聞いた時に「劇中での役割から考えても、これは日本語の永遠(エイエン)と永久(トワ)を足した言葉なのかな?」と思ったり、あるいは「ナヴィ」という言葉を聞いた時に「これは一体どういう理由でネーミングを付けたのだろう?」と思ったのですが、実際はどういう語源でネーミングをしていったのでしょうか?

ジョン:「アバター」は母なる大地、自然というものをテーマとしているので、それらの言葉の語源はそこから来ています。アメリカでは「ガイア」と呼ばれる、地球上のすべてを動かしているものがベースとなっています。

G:今回の映画「アバター」は今日がジャパンプレミアなのですが、私は一足先に3Dでアバターを鑑賞しました。正直、見るまでは「アバターは本当に大丈夫なのか?なんなんだこの青い生き物のCGは?」という不安がありましたが、実際に2時間42分すべてを見終わる頃には「これは映画史に残るべきマイルストーン的作品だ」と思うに至りました。逆にこのアバターが想像していたよりもあまりにすごかったので違う不安を感じ始めたのですが、プロデューサー「ジョン・ランドー」の目から見て、ジェームズ・キャメロン監督は次に作る映画でこのアバターを超える作品を作ることは果たしてできるのでしょうか?

ジョン:今回の作品はあくまでも一つの始まりにすぎません。これまで表現するのが不可能だったものをどんどん表現できるようになる、その突破口となったのです。(ここでドアを開けるようなジェスチャーあり)


G:前回のタイタニックからこのアバターまで10年以上時間が空いたように、次のジェームズ・キャメロン監督作品が世に出るまで、やはり10年以上の時間がかかると考えた方がよいのでしょうか?

ジョン:そうではないことを祈っています!(一同爆笑)


G:では、今回の「アバター」では技術が追いつかなかったせいで10年以上もの時間がかかってしまったのでしょうか。

ジョン:この映画に関してはアップで撮影する技術が追いついていなかったのです。しかし技術的な問題だけでなく、視覚的に興奮させるだけの映画を作るのではなく、感情面でも表現するのがやはり大切です。「アバター」は子ども向けというわけではなく大人も含めて、そして男性だけでなく女性にも共感いただけるものと確信しています。

G:先ほどおっしゃった「アップで撮影する技術」というのは具体的にはどのようなものなのでしょうか?

ジョン:登場人物がすべてCGで作られるというのは前提としてありました。過去の作品を見ますと、演技とCGとの間にギャップが生まれているように感じていましたので、従来の顔にいろいろな印をつけて撮影を行うような手順はなくしました。役者の顔の前にカメラを一台だけ設置し、役者の顔が動くと同時にそれを追っていくようにしました。より映像の質を上げるため、一コマ一コマ、毛穴が見えるレベルで確認をしていきました。それが先ほど申し上げた「アップで撮影する技術」です。目というのは魂への入り口なのです。

G:なるほど、確かにナヴィの青い肌はテレビの予告編CMだとただのCG質感にしか見えませんが、ネット経由でフルHDの予告編などを見るとまるで本物の人間のように肌のきめ細かい感じまで細かく再現されており、そういう部分の表現は確かに圧倒的ですね。

ジョン:たとえばネイティリ役のゾーイ・サルダナですが、実際にメイクアップを施したとすると顔の上に厚みが出て、演技に影響が出てしまいます。しかし今回の映画製作ではそういった部分もCGで処理をしているので、筋肉の動きから何まで、すべてを表現できるのです。

G:あと、ジェームズ・キャメロン監督はこのアバターを作るか、それとも日本のマンガ「銃夢」を原作とした「BATTLE ANGEL」をアバターより先に作るかで悩んだ結果、このアバターを先に作り、今回のアバター制作で得たノウハウを次の「BATTLE ANGEL」に生かすことにしたそうですが、我々日本人は同じく日本のマンガが原作の「ドラゴンボール」が「DRAGONBALL EVOLUTION」という形で映画化されたものを見て、あらゆる意味で驚愕し、ついには「2009年度この映画はいったい誰が観に行くんだ!?大賞」ではぶっちぎり1位で「DRAGONBALL EVOLUTION」が選ばれるという事態になってしまいました。「BATTLE ANGEL」はそういう事態にはならないと信じたいのですが、「BATTLE ANGEL」にこれは生かすことができるはずだと感じた、今回のアバターで得たノウハウを教えてもらえませんか?

ジョン:アバターを先に製作した理由は、順番が逆であった場合よりも、次の作品に生かせるものが多いのではないかと考えたからです。「アバター」が出来あがったことで、次の作品が製作しやすくなると思います。ただし、他にも製作する映画はあるので、次回作が「BATTLE ANGEL」になるかどうかも現段階では分かりません。


左にいる監督の来ているTシャツをよく見ると、「銃夢」の主人公「ガリィ」がプリントされており、伝え聞くところによると既に脚本はある程度完成しており、第1作・第2作・第3作というように続くかも知れず、さらにアバター撮影前に世界観をデザインする作業を既に開始したらしい。

G:アバターは本来、世界同時公開のはずだったにもかかわらず、日本は12月18日公開から12月23日公開という感じでズレてしまいましたが、これはどのような事情による判断だったのですか?アバターが上映される世界各国の中でも割と公開日程が遅い方になってしまっていますが…。

ジョン:日本は他国に比べて比較的公開が早いほうで、アメリカでの公開からたった5日遅れただけです。中国は2週間半、イタリアは1ヶ月遅れでの上映ですからね。それぞれの市場におけるタイミングと機会が重要と考え、日本では祝日にあたる23日が完璧なタイミングであると見て日程を変更しただけのことです。昔は公開日は特に知らされていなかったですし、今は世界中で同時に公開するというのは、海賊版の問題があるので不可能なのです。タイタニックの時も、地域によっては2ヶ月もずらしたところもあります。

G:公開日を決定するのはあなたなのですか?

ジョン:公開日を決定するのは20世紀フォックスです。しかしあくまで彼らはパートナーなので、我々ももちろん話し合いに参加します。映画製作については私たちが専門家、20世紀フォックスは配給の専門なのです。

G:20世紀フォックスの元副社長だったと伺ったのですが。

ジョン:はい、そうです。5年ほど副社長を務めました。在任中の「トゥルーライズ」の製作過程でキャメロン監督と知り合ったのです。

G:アバターのような超大作映画はとんでもない額の制作費がかかるわけですが、今回はどれぐらいの制作費がかかったのでしょうか?というのも、2億7300万ドルと書かれていたり、3億ドルと書かれていたり、一体本当はどれぐらいかかったのかがわからないのですが…。

ジョン:大変喜ばしいことに、観客のみなさんはどんな映画を見るにしても料金は一緒なんです!つまり、映画界というのはコストに比例した料金で商品を売り出せない唯一の業界なのです。たとえば今いるホテルも、お金をたくさん払うほどにそのサービスや部屋の内容に比例するでしょう?

G:では、もし映画の値段を決められるとしたらもっと高い値段、たとえば倍の価格をつけたいと思いますか?

ジョン:いえ、そうは思いません。大切なのは、一般の方々が倍払ってでも見たいかどうかです。

G:最後に、あなたは20世紀フォックスの副社長時代の5年半で「ダイ・ハード2」や「スピード」など大作・話題作の製作を指揮し、大ヒットさせ、「タイタニック」、そして今回の「アバター」というようにかなり輝かしい経歴ですが、今後プロデューサーを志す人たちに何かプロデューサーの先輩として、アドバイスをいただけますか?

ジョン:まず先に何が来るのかを常に意識することです。最も大切なのはストーリー、それから登場人物です。皆さんはあまりにも最先端の技術などの視覚効果に目が行ってしまいがちですが、まず自分を信じること。そして、不可能を可能にできる、ということを信じ続けるのが何よりも大切なのです。

G:ありがとうございました。


映画「アバター」オフィシャルサイト
http://movies.foxjapan.com/avatar/

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
【GIGAZINE先行独占配信】近未来の兵器映像&日本未公開シーン満載の「アバター」日本語字幕付き特別ムービー公開 - GIGAZINE

映画「アバター」本編映像6本が公開開始、ロンドンでのプレミア上映は爆発的な反響に - GIGAZINE

3D立体映画の大本命「アバター」の立体映像っぷりがどのような感じなのか、15分の特別試写レポート&体験してみた感想とかいろいろ - GIGAZINE

in インタビュー,   動画,   映画, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.