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「エコ」な商品を購入した直後の消費者はケチで利己的な行動を見せる


ハイブリッドカーや低消費電力の家電製品、オーガニック衣類やオーガニック食品、水を汚さないとされる「自然派」の洗剤やシャンプーなど、「エコ」を売りにした商品は多数登場しています。こういった商品は競合商品より概して値段が高いのも事実ですが、少し値が張っても「環境に優しい」商品を購入すると何だか善いことをしたようで気分が良いという人も多いのではないでしょうか。

しかし、その「地球に優しい選択」をしたことにより一日一善のノルマを達成したかのような気分になるのか、あるいは高い買い物をした分を取り返そうという心理が働くのか、「エコ」な製品を購入した直後の人はケチで利己的な行動を見せたりゲームでズルをしがちであることがトロント大学の研究により明らかになりました。

詳細は以下から。Can buying organic produce and natural shampoo turn you into a heartless jerk? - By Rebecca Tuhus-Dubrow - Slate Magazine

トロント大学Rotman経営管理大学院Nina Mazar准教授とChen-Bo Zhong氏によるこの研究はPsychological Science誌に発表されました。論文(PDFファイル)は大学のホームページで公開されています。

研究ではまず、「エコ」な製品の購入は、その購入者の高い倫理基準や社会的配慮の現れであると受け止められることを、トロント大学の59人の学生(うち女性32人)に「エコ」な製品と通常の製品の購入者を評価してもらうことにより確認しました。

過去の研究から高級レストランの写真を見せられた人は直後に食事のマナーが向上したり、アップルのロゴを見せられた人は創造力を発揮するなど、環境の中に潜在する心理学的なキュー(無意識のうちに反応を引き起こす手がかり)が行動に影響することが明らかになっています。


そのため、「倫理」や「社会的配慮」を象徴する「エコ」な製品を目にする環境に置かれた人は、そのキューにより、倫理的で社会的な行動をとりやすくなることが予想されます。しかし、見るだけでなく実際に「エコ」な商品を購入するに至った場合は、その後モラルの低下した行動をとりやすくなることが予想されるそうです。

これは、社会心理学者の間で「Moral Credential(モラルの証明書)」あるいは「Moral Licensing(モラル免許)」と呼ばれる現象で、例えば、性差別的でないということを周囲に示す行動(性別に関係しないポストへの昇進に女性の候補者を推す)をとった直後の人は、性差別的ととられても仕方のない行動(典型的な「男の仕事」に男性の候補者を推す)をとりがちであることや、これは人種差別的な行動に関しても同様だということがすでに明らかになっています。また、過去の道徳的な行為を思い出させられた直後の人は募金や献血、ボランティア活動などに参加する割合が低いことも明らかになっています。

これらの仮説(エコな商品を見ただけの人は直後にモラルが向上し、実際に購入した人は直後にモラルが低下する)を検証するため、Mazar准教授らは次に、156人の学生(うち女性96人)に単位と引き替えに1時間の実験に参加してもらいました。被験者はランダムに「エコな商品を購入」「通常の商品を購入」「エコな商品を評価」「通常の商品を評価」の4通りの状況に振り分けられ、その後、前のタスクと関連しないタスクとして「独裁者ゲーム」というゲームに参加しました。

パソコンのあるブースに通された被験者は、「エコな店」(12商品中9商品が「エコ」な商品)と「通常の店」(12商品中3商品が「エコ」な商品)の2つのオンラインショップのいずれかで、「商品の評価」(商品のデザインや商品の説明文を数値で評価)または「商品の購入」(合計25ドル以内の商品を買い物かごに入れ、25人に1人実際にそれらの商品が当たるという疑似購入)のいずれかのタスクを行いました。


その後、6ドルを元手に別の部屋にいる匿名のパートナーと分け合う「独裁者ゲーム」に参加しました。この6ドルのうち分けなかった金額はそのまま受け取ることができ、被験者の匿名性は保たれることが保証され、実際には「パートナー」は架空であり被験者の全員が「独裁者」の役を割り当てられていることは明かされませんでした。その結果、「エコな店」で「商品を評価」した人は「通常の店」で「商品を評価」した人より多くお金を分ける傾向があり、「エコな店」で「商品を購入」した人は「通常の店」で「商品を購入」した人より分けるお金が少額な傾向があるという、有意な相関が見られたとのことです。この実験により、エコな商品の購入により直後に利他的な行動が減少する(利己的になる)ことが示されました。


次に、単に積極的に社会的配慮を示さなくなるというだけでなく、エコ商品の購入により「うそ」や「盗み」などの非道徳的行為を(潜在意識的に)正当化できるほどの「モラル免許」が得られるかどうかを検証するため、90人の学部生(うち女性56人)に5カナダドル(約415円)と引き替えに実験に参加してもらいました。

被験者はまず、前回の実験と同様に「エコな店」と「通常の店」のいずれかで「商品の購入」を行いました。今回は「商品の評価」はなく、パソコンの設置されたブースにはさまざまな単位の硬貨・紙幣で合計5ドルが入った封筒が用意されています。次のタスクとして、被験者はお金を得ることができるパソコンのゲームを行います。

このゲームでは中心で縦のラインにより区切られた箱の中に20個のドットが1秒間現れ、被験者はラインの左右どちら側に多くのドットが現れたかをキーを押して答え、左側にドットが多かった場合は1回正解するにつき0.5セント、右側に多かった場合は1回につき5セントが得られます。ドットは15個と5個・16個と4個・17個と3個など、左右どちらに多いか容易に見て取れるような現れ方をし、実験の実施者は「今後の実験のため、正確な結果が必要だ」と強調しました。

※イメージ画像です

実際のゲームが始まる前に被験者は30試行の練習を行い、この練習では実際にお金はもらえないのですが、得られたはずの金額が画面の最上部に表示されます。この練習により、被験者たちは実際には正解・不正解にかかわらず押したキーに反応してお金がたまっていくことに気付くようになっています。そのため、実際のゲームが始まると被験者たちは正確な答えを入力するか、うそをついて(答えにかかわらず「右」を押し続ける)多くのお金を得るかのジレンマにさらされます。

実際のゲームは90試行あり、そのうち40%(36回)で右側に多くのドットが現れます。そのため、正答率100%の場合は被験者は約5分間のタスクで2.07ドルを得ることになります。90回目が終わると、画面に合計金額が表示され、用意された封筒からその金額を持っていくように指示されます。そのため、ゲームで「うそ」をつくだけでなく、ゲームで得た金額より多い金額を持ち去る「盗み」の機会もあるわけです。


実験の結果、「通常の店」で商品を購入した被験者は平均で42.5%の試行で右側に多くのドットが現れたと答え、実際の正答(40%)と大差ないのに対し、「エコな店」で商品を購入した被験者は51.4%の試行で右側に多くのドットが現れたと答え、お金を多く得るために「うそ」をついていることが示唆されます。そのため、「エコな店」で商品を購入した被験者は「通常の店」の被験者より平均で0.36ドル多くの金額を得ています。

また、最後にお金を「盗む」チャンスでも、「エコな店」で商品を購入した被験者は「通常の店」の被験者より平均で0.48ドル多くの金額を封筒から盗んでいたため、合計すると「エコな店」の被験者は「通常の店」の被験者より、実験終了後に平均で0.83ドル多い金額を持ち帰ることとなったそうです。これにより、「エコ」な商品の購入により潜在意識下で「うそ」や「盗み」も帳消しにできるほどの「善行の貯金」がなされていることが示されました。


ではこの「Moral Credential」という心理学的な現象により、善いことをした後はつい気がゆるんでモラルが低下してしまうのを防ぐにはどうすればよいかというと、そういった「正当化」により「善行の直後はモラルの低下した行動を取りがちである」ということを知り、用心しておくことが一番の防御策として挙げられています。自分の欠点を書き出すことや過去に行った非道徳的な行為を思い出すこと、自分の倫理的な理想を確認したり、例えばマハトマ・ガンディーなどの尊敬する人や、身近でお手本にしたい人物について考えることも効果的とのことです。

インド独立の父、マハトマ・ガンディー。


また、「エコな商品を買う」ということが「ちょっと善いこと」ではなく当たり前のこととなれば、その度に「善いことをした」とひたって気がゆるむこともなくなります。使っていない部屋の電気を消したり、ペットボトルをリサイクル用の専用ゴミ箱に捨てるたびに「善いことしたぜ!」と誇らかな気持ちになるという人はなかなか珍しいのではないでしょうか?

「一日一善」と言わずに常に人や環境に優しく、倫理的でありたいという人は、善行のあとにモラルが緩むというメカニズムを気に留めておくとよいかもしれません。

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