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「エタノールの方がガソリンより環境に悪い?」のかどうか考察してみた


さて、先日GIGAZINEに掲載した「エタノールの方がガソリンより環境に悪い?」という記事ですが、掲載直後から「それは違うのではないか?」というツッコミと指摘を山ほどいただきました。確かに、一般的に言われているのは「エタノール燃料は二酸化炭素の排出量も少ないので環境によい」というもの。それに対して真っ向から逆のことを今回の記事は言っている訳なので、「おかしい」という指摘が来るのもやむを得ないのか、それともこの記事自体が間違っているのか?

というわけで、一体真実はどうなのか、調べてみました。
まず、ガソリン自体をあの化学式、つまりオクタンのみで表現することは、あまりにも無理があります。ガソリンはいろいろなものの混合物なので、化学式のような純粋なガソリンは存在しません。なのにこの式では窒素化合物も一酸化炭素も何も出ていませんし、不完全燃焼も起こっていません。ただし、現実でもこのオクタンの化学式の通りに反応が起きるのであれば、この通りになります。が、現実にはそうはならない。これがポイント。

それに対してエタノールの方は化学式で表現されているものとほぼ同じ反応が現実でも起きていると考えられます。なぜかというと、これは純度の問題であるため。エタノールとガソリンではエタノールの方が言うまでもなく純度が高い。純度が高いということは、化学式とほぼ同じ反応が起きるということを意味しています。

では、参照元の記事は間違っているのか?化学式は間違ってはいません。この化学式同士で比較するのであれば確かに正しいです。しかし、このようにあまりにも単純な化学式から「エタノールの方が二酸化炭素排出量が多いので環境に悪い」という結論は間違いです。さらにいえば、環境への影響について実際に比較するのであれば、生産時からの全炭素収支量を集計して比較しないと比較になりません。

なお、なぜオクタンなのに「C12H26」という表記になっているのかというと、オクタンとエタノールを比較するために式の左辺を揃えているため。倍数になっても化学式自体の意味はこの場合変わらないので問題ないというわけです。それが「Octane (n-dodecane)」の意味です。なので、化学式はやはり間違っていません。

つまり、該当記事の内容は「式は正しいし言っていることも正しいが机上の空論に過ぎない」というわけ。

2007/09/01 2:10追記
エタノールとガソリンだけについて比較すると既に書いたとおりですが、「環境」も交えて考えるならばエタノールではなく、いわゆる「バイオエタノール」、つまりサトウキビなどから作ったエタノールについて考察しないと無意味なのでは?ツッコミの意味はそういうことであって、式うんぬんではなくその前段階についてまったく触れていないからでは?という指摘があったので、そのことについても追記しておきます。どうやら単純な燃料としての話ではなく、「環境」としての視点での考察が足りないということだったらしい。

「サトウキビなどから精製したエタノールであれば、サトウキビなどは大気中の二酸化炭素を成長過程で取り込んでいるため、サトウキビなど由来のエタノールをどんなに燃焼させても、大気中の二酸化炭素量は最終的にはプラスマイナスゼロになる。つまり、エタノール由来燃料はどんなに燃やしても、大気中の二酸化炭素は増えない」(減らないが、増えもしない)……ということでよく知られているロジックが「カーボンニュートラル」という考え方です。

カーボンニュートラル よくわかる!技術解説 用語解説

カーボンニュートラルとは、植物は燃やすと化石燃料と同様に二酸化炭素を排出しますが、成長過程では光合成により大気中の二酸化炭素を吸収するので、収支はプラスマイナスゼロになる、という炭素循環の考え方のことです。


しかし、この理屈自体、これだけ聞くと言葉の上では正しいので納得しそうになるのですが、これも先の参照元記事と同じで、実際には「京都議定書」で作られた「机上の空論」の疑いがあります。理屈だけで考えており、実際にどうなるかをあまり考えていない、と。

京都議定書 - Wikipedia

欧州各国が反対する中、日本やカナダの主張により挿入された森林が二酸化炭素を吸収すると言うロジックには森林は成長→成熟→枯死の過程で最終的に森林内の動物や微生物を媒介とした炭素分解反応が生じることから、吸収され固定化された炭素は最終的に分解や火事等で二酸化炭素に戻るという観点が欠落しており、森林が拡大し続けない限り二酸化炭素吸収効果は認められない。

これは森林に限らずサトウキビなどの場合でも同様で、延々と植え続けて、さらにどんどん増やすのであれば「プラスマイナスゼロになるはずだ」という理屈です。ですが、これだとサトウキビではなく、普通に自然を増やせばいいという意見も。調べてみるとこの点については各方面で多く議論されており、サトウキビを栽培するためにサトウキビよりも効率よく二酸化炭素を吸収する熱帯雨林を伐採するなどの理不尽な事態も発生しているようです。

エタノール需要急増でブラジル・セラードが危機、アマゾンより森林伐採深刻|Ameba News

「セラードの森林伐採は、アマゾンの熱帯雨林よりも速いペースだ」と国際NGOのコンサベーション・インターナショナル(CI)は警告する。セラードはここ40年ほどで姿を変え、すでに全域の57%で原植生が破壊されているが、このところのエタノール需要でさらに破壊のスピードが加速している。同NGOの調査によれば、現在も年300万ヘクタール、1分間にサッカー場2.6個分に相当する広さが姿を消していて、現状のままでは2030年までに消滅すると CIは警告している。

確かに、化学式うんぬんの問題ではなく、多方面から考察しないと実態が見えにくいようです。環境問題は複数の要因が絡み合うのに加え、「実際にはどうなるのか?」という点になるとあれこれと条件を加えることができるので延々と堂々巡りになりやすいようです。加えて、客観的なデータや実証例が少なく、憶測と推測だけで正しさを決定するというメカニズムが横行しやすい下地があるので、これからも引き続き注意が必要なようです。実際には具体的に解決する代替案があればいいのですが、残念ながら見あたりませんでした。

なお、今回のバイオエタノール自体の燃焼効率うんぬんなどについては、調べてみると下記の記事がわかりやすかったです。

石油を上回る自動車燃料は現れるか(07/07/04)-コラム:日経Ecolomy

というわけで追記前にメールで意見をくれた方々、ありがとうございました。

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in メモ, Posted by darkhorse

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