日本社会で起業するため本当に必要な9つのモノ


~目次~
■ブルーオーシャンなんてどこにもない
■それはロングテールではなくてただのニッチ市場
■その会社は何年続くのか
■お前が死ねばその会社は終わる
■代表取締役とCEOと社長は違う
■足し算と引き算ができるかできないか
■ロジックが正しくても利益は出ない
■世の中には会社がたくさんあるという現実
■挫折から立ち直る方法は挫折することでしか得られない
■あなたが起業するために必要なモノ

以前にインタビュー記事を掲載した「ビジネスプランコンテストSEEKS」、これには実際にGIGAZINEも審査員として参加し、全部で12チームの出したプランを見ていったわけです。で、終了後に交流会があったりと、いろいろな起業を志望する人と交流ができたわけです。

その中で感じたことを以下、まとめていきます。ホリエモンによっておそらく本格的に火がついたというか、注目されてきた就職以外の「起業」という選択について、大いなる誤解が跋扈しているので警鐘の意味を込め、どちらかというと学生向けに書いていきます。なので、実際に起業したいと考えている人にとっては不愉快きわまりない超ネガティブなものになっていることを最初に注意しておきます。ですが、これがおそらく日本における真実です。起業したいと思っていない人でも、心の片隅にとどめておけば必ず役に立つはずです。あるいは新興企業へ投資する際の判断指標として役立つかも。
■ブルーオーシャンなんてどこにもない


ブルーオーシャン」というのは、2005年に話題になった考え方。競合他社とコスト削減や差異化などで戦う既存市場を血みどろの「レッドオーシャン」とし、そうではなく競争自体を無意味なものにする未開拓市場「ブルーオーシャン」を創造すれば過剰な競争に晒されずに企業は繁栄できる、というもの。これだけだとただの新規開拓事業と大差ないわけですが、ここにいろいろな分析ツールを駆使し、実例を交えていくことでかなりの説得力を持つ内容に仕上がっています。

これはどちらかというと既存のレッドオーシャンに身を置く企業が過当競争の中で消耗戦に陥り、利益幅が縮小してしまうという事態を回避する方法を示したものであり、新規に事業を行う場合はあまりあてになりません。しかし、今回に限らず多くの起業を志望する人はこの「競争のない未開拓市場」という点に非常に魅力を感じるはずです。なぜなら、既に大企業が存在している市場に新しく参加すると、いわゆるベンチャー企業は資金・営業力・設備・経験など、あらゆる面で不利だからです。結果、どうしても未開拓市場を創造することによって利益を出すと言うことを夢見がちになります。

ですが、未開拓市場を開拓すると、あとから別の企業がそれを見て「うちもやってみよう」となるわけです。これはブルーオーシャン戦略の中でもちゃんと示されています。つまり、最終的にはどこかでレッドオーシャンに突入するだけであり、その覚悟も戦略もないまま、ただ競争が最初はないからと言う理由だけで「新しいこと」をビジネスとして起業するのであれば、失敗するのは必然というわけです。残念ながらほぼ9割のビジネスプランと起業を志す人々はこの段階で既に終わっています。ベンチャーを志す人の集まったコミュニティや勉強会などといったものを外から見たときに感じる「ふわふわした感じ」の正体はまさにこのレッドオーシャンからの逃避という選択を選んだ人間が放つ戦闘意欲のなさそのものです。

■それはロングテールではなくてただのニッチ市場


同様に2006年から頻繁に聞かれるようになったのが「ロングテール」という考え方です。実際の小売店の売れ筋は全商品種類の2割であり、その2割が全体の8割の利益を占めるため、いかにして死に筋の商品を排除して売れ筋の商品を維持するかがこれまでの商売。それに対してAmazonのようなネット上のサービスであれば実際の店舗と違って商品陳列棚という物理的制約および維持管理コストが最小化できるため、死に筋になっている残り8割の商品でも、ちりも積もれば山となる方式で利益が出る……というのがロングテール的考え方。グラフ化した際に恐竜のしっぽみたいに長く伸びるので「ロング」な「テール」というわけ。

つまり、売れ筋がある中で死に筋からも利益をちゃんと出す、というのがビジネス的側面で見た場合の「ロングテール」なわけです。そのため、最初から「ロングテール狙い」というのは存在するわけがないのです。ものすごく頻繁に聞かれる「市場のロングテールから利益を出す」という説明があるプランは既にその時点で破綻しており、自称ベンチャー志望者は何も理解していないと言うことを白日の下に晒しており、既に死亡しているも同じです。それはただのニッチ市場狙いというやつであって、そういう自覚がない場合はただ死を待つのみです。

■その会社は何年続くのか


新しく企業を志す人が熱く夢を語るたびに聞いている質問がこれです。この質問にどう答えるかがその人のすべてであり、最終的にはその会社の行く末になります。これは既存の企業に就職する場合も同じはずです。明日か明後日に倒産するかもしれない会社に新卒で入りたい人はあまりいないはず。

この質問には続きがあり、「100年後もあなたの会社は存在しているのですか、そのときその会社は何をする企業になっているのですか?」となります。というのも、成功している企業のほとんどが延々と同じことを繰り返しやり続けたわけではなく、どこかの時点で方向転換をしたり、それこそブルーオーシャン戦略によって新規市場を開拓したりしています。

要するに、最初のプランはあくまでも最初のベンチャー的立場ゆえに出てくるスタートアップでしかなく、そこからさらにどうやって発展させていくのか、最終的にはどうするのか、さらにそこから次の目標をどのように見つけて梶を切っていくのかが「経営」というものなのに、そのことを理解せず目先の夢とやらを実現するためだけに邁進するケースがあまりにも多すぎるということ。結果、最初はうまくいったけど、長続きせず、倒産という憂き目にあうわけです。

■お前が死ねばその会社は終わる


これは大企業でも時として言えることですが、誰かが死ぬと経営が傾くとか、利益が大幅に減少するとか、事業が頓挫するという状態である場合、その企業はまだ未成熟です。ベンチャー企業の場合は立ち上げの時に人が少ないため、ほとんどが「誰かが死ねば終わる」式ですが、だからといっていつまでもそのままの状態ではダメです。特に、たったひとり、自分だけで始めるという場合は失敗する確率は飛躍的に高まります。意気揚々と「まずは自分だけでやってみて、それで軌道に乗ったら人を雇って……」などというプランはダメダメです。

もし自分が病気になったらどうなるのか、自分が事故を起こしたらどうなるのか、最悪の場合、自分が死んでもその企業は続行できるのか?こういうリスクを考えに入れていないビジネスプランが本当に多いです。そのため、複数人でちゃんとバックアップしながら実行できる体制を構築する方向を考慮しないプランはどうしても「机上の空論」になります。

極端な話、ある程度までこういうことを考える既存の成功している経営者は「電車の一番前の車両には極力乗らない」ということから始まって、「会社の重要なポジションの人間を同じ飛行機に乗せず時間差で分乗させる」「命を落とす危険のあるサバイバル的趣味は持たない」「不慮の事故で死んだ場合に備えて保険金の受取人を会社法人に指定している」というケースが非常に多いです。これぐらいのことを考えていない人や考えもしなかった人は起業家として不適切です。

■代表取締役とCEOと社長は違う


やりたいことはあるが、既存の企業だと思うようにそれができないので、自由に自分の意志で経営方向を決定するために起業する、というケースがあります。特に昨今のWeb2.0的な流れの中ではアイディア一つで起業していくことが多いためです。この場合にぶつかる壁が、「自分はやりたいことを思うがままにやりたいだけであり、決して経営や会社の成長などに興味があるわけではない」というものです。

単純に「社長」「代表取締役」などという肩書きがかっこいいのでそれにあこがれ、起業したいという人であればそれはそれで実は問題など無いのですが、そういうわけではないのに起業したからには経営もやらざるを得ないという場合、自分の好きなことだけをやり続けたくて、それ以外のことに手抜きになってしまい、夢実現の半ばで頓挫するという羽目になります。良いものを作っていれば必ず成功するわけではないのです。

このような場合、本来であれば「経営のプロ」をトップに据え、実権は自分が最大株式数を保有するなどで確保しつつ、自分のやりたいことに集中する…というのが正しい方向です。経営に興味はないが自分のしたいことをなすために起業するのであれば、良き経営パートナーとしての相棒を見つけるのが必須です。熱く夢を語る人に共通する罠がまさにこれで、「で、どうやって経営を軌道に乗せるの?」と聞かれると途端に具体的な言葉が出てこなくなると言うわけです。

■足し算と引き算ができるかできないか


企業はボランティア団体ではないので、利益を出さなくてはいけません。いつまでも赤字が続くとか、負債を多く抱えると経営できなくなって倒産します。例えば、東京商工リサーチの倒産速報や帝国データバンクの大型倒産速報を読めば、いろいろな事例がわかります。

企業の会計はいろいろと複雑な用語や計算方法が絡んできますが、極端に突き詰めるとすべて足し算と引き算の繰り返しです。ですが、意外なことにビジネスプランのほとんどは計算がまともにできていません。「開始3ヶ月目から利益がこれぐらい出て黒字化し、1年後には年商3億になります」というようなことをきれいなグラフ付きで説明されたときにはめまいがしました。事業が軌道に乗れば拡大路線を目指すのは必然ですが、そうなると付随するコストも大きくなるという計算が勘定に入っていないわけです。そして、それを計算することを避ける場合が非常に多い。なぜなら、実際の数字は嘘をつかないため、突きつけられる試算結果はいつだって「赤字」だからです。

しかし、赤字と言っても今すぐにつぶれるわけではありません。それは倒産速報を見ても明らかですし、一部上場企業の決算書を見れば自明の理です。純利益が出ていなくても会社は走り続けることが可能です。「現状だとあと何年でつぶれるが、もう少し利益が上がれば実は寿命が結構延びる」というような計算をする勇気がない人は企業の経営の途中で心が折れるので、だめです。

■ロジックが正しくても利益は出ない


今まで提示してきたような数々の現実的問題をすべてクリアするビジネスプランが最後に直面するのがこの壁です。つまり、そのアイディアは「机上の空論でしかない」という問題。ちゃんと利益を出す理屈も理論も整合性があるが、突発的なトラブルや予期せぬ事態になった場合にちゃんと回復できる手段が構築されていないという場合や、現状の社会状況に合致しているだけであって、将来的な変化に対応できるとは思えないという場合、さらにはあまりにも機械的ロジックの度が過ぎていて、人間が間に介在することを軽視しているという場合もあります。

最終的にビジネスというのを突き詰めると、人と人の取引です。人間という要素がどこかに必ず介在する以上、理屈をねじ曲げる理不尽が存在し、逆に言えば強引に押し通すことさえも可能になっているわけです。例えば、Aという商品が1000円、Bという商品が1500円であるとします。Aの方がBよりも上質です。ということは理屈上はAが売れるはずです。しかし、実際にはBも売れます。条件次第ではBの方が圧倒的にAよりも売れたりします。どういう条件かというと、それがブランドであったり、営業力であったり、コネであったり、バイヤーへの賄賂であったり、バックペイであったり、熱狂的なファンであったり……というもの。わかりやすい例を出すと、全世界的に見るとGoogleが勝っているのに日本市場ではYahoo!が勝っているという現象などが該当します。

■世の中には会社がたくさんあるという現実


電車に乗ったり、自動車の助手席に乗ったり、あるいは街中を歩いているといつもいつも「この会社は一体どうやって利益を出しているのだろう…?」という疑問を抱いてしまいます。それぐらい多くの企業が存在しているという現実から何を学ぶのか、というのがポイントです。それらの企業の中には必ず自分の考えているビジネスプランに類似するモノがあり、中には全く同じでありながら倒産した先駆者がいるかもしれません。そういう失敗例と成功例を実際にやり始める前に十分な時間をかけて分析できること、それがベンチャー企業の唯一の強みです。それ以外にはメリットなんてどこにもありません。会社は実際に動かし始めると止まることはできません。ということは、開始前に十分な準備をしておかないと、簡単に頓挫してしまうと言うことです。

実際に存在する大手企業に就職するのもいい方法です。特に完成系の企業と未成熟ではあるが勢いのある発展途上の企業、この2つを実際に何らかの方法で経験できればベストです。どこにも就職せず、突然学生から起業して成功するというのは実際には非常にまれなケースです。成功するケースの大半は、既にどこかで類似する仕事を経験し、それによって自分でも新たに始めてみた……というものです。それぐらい、経験と知識は役に立ちます。経験も知識もなく、むやみやたらと起業しても成功するわけがないのです。

起業したいと声を大にして言いまくる学生を見たときに感じる違和感がまさにこれです。頭の中のアイディアだけを大事にし、地に足がついておらず、付けようという気もなければ予定もない。ビジネスプランというよりは空想や妄想であり、「起業を志す自分ってかっこいい!」というナルシズムに満ちあふれている、そんな自称起業志望者があまりにも多く、辟易してしまいます。

■挫折から立ち直る方法は挫折することでしか得られない


人間が他の動物と違うのは、予測できるという能力があることです。本能による予想ではなく、知識と経験によって未来を予測することで危機を回避できます。しかし悲しいかな、人間というのは実際に経験するまでは実感がわかないため、必要性を感じられないために、その予測から得られた実行に移すべき行動を起こせない場合が多々あります。あるいは、失敗が予測できるがために動けないという場合もあります。大半の人間が起業しない理由はまさにここにあります。すなわち、失敗するに違いない、成功しない可能性の方が大きいと予測できる……と。

また、失敗した場合にリカバリできないというのも大きな不安要因です。挫折してそこから立ち直るには多くの労力を費やしますし、時間もかかります。また、好んで失敗や挫折をする人はいません。が、失敗や挫折を経験すると「挫折から立ち直る方法」がわかります。つまり、挫折したという事実を受け止めて自分の中でどうそれを処理していくかという方法です。これは個人個人によって千差万別であり、ケースバイケースなので共通の方法というモノはなく、そうであるがゆえに起業において最大の差となります。

実際に成功した人の半生をいろいろな書物やインタビュー記事から読み解くと、ほぼ例外なく大きな挫折を経験しているのがわかります。誹謗中傷、侮辱、周囲の無理解と反発、出る杭は打たれる、嫉妬やねたみ、恨み、足の引っ張り合い、妨害工作、印象操作、考えられる限りありとあらゆる艱難辛苦が現実には存在しています。それらを乗り越えるためのいわばノウハウを既に獲得しているかどうかと言うのは非常に大きなポイントです。そのため、挫折から立ち直ったことのない「挫折に免疫のない人」や、挫折しても立ち直らずに回避したり逃避したりしてやり過ごしてきた「自分に嘘をついて自分をだましきる人」は起業に向いていません。

■あなたが起業するために必要なモノ


今までの各項目が必要なモノの答えになっています。すなわち、以下の9項目です。

1.ブルーオーシャンなんてどこにもないから、レッドオーシャンでも生き残るだけの計画性と戦略性、そして現実の変化する社会状況に合わせて変えていく柔軟性を兼ね備えることができるように努力する。

2.ロングテールではなくてただのニッチ市場狙いにならないようにするため、利益を最大に出す行為と利益の出ない行為から利益を出す、あるいはコストを最小限に抑える行為を念頭に置く。

3.自分の会社は何年続くのかを考え、最低でも100年間は続けられるように覚悟してマスタープランを練ること。これによって軸のずれない選択が可能となる。

4.自分が死ねば会社がつぶれるような状態から早く脱却するためには何をすればいいのかを考えること。たったひとりで起業しないこと。必ず社員は必要になる。そもそも起業する際に誰もあなたの考えに賛同せず、社員になってくれる人が一人もいないのであればそのプランは既に失敗です。

5.代表取締役とCEOと社長は違う人間にそれぞれすべきだが、不可能であるならば自分の得意な領域と不得意な領域を明確にし、不得意領域はその領域が得意な人に任せること。自分の体はたった一つで、1日は24時間しかないのだから。

6.足し算と引き算を恐れないこと。計算に必要な実際の数値を根気よく集めて整理すれば、大体驚愕の結果が出るが、慣れれば今度はその結果を自分の望む数値にするにはどこの数値をどのように改善すればいいかが見えてくる。

7.ロジックが正しくても利益は出ないので、正面突破以外の方法を常に考えること。

8.世の中には会社がたくさんあるので、多くをそこから学んでお手本にすること。特に成功例よりも失敗例からの方が多くを学び取ることができます。

9.挫折から立ち直る方法は挫折することでしか得られないため、失敗は早めに、そして派手に経験しておくこと。みんなが当然できていることができていないというようなレベルでの挫折が最もキツイので好ましい。起業したいという今の段階で挫折経験がないのであれば、もうやめておいた方がいい。おそらくは失敗せず、そして挫折しない才能があるかもしれないので、既存の企業を大きくするのに向いているはず。がんばって他社の社員になってその企業の中で昇進し、ゆくゆくはトップに上り詰めて乗っ取る道を選びましょう。

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in コラム, Posted by darkhorse