コラム

Web2.0のビジネスモデル その3「オープンソース」


ロングテールベータ版というようにして、Web2.0に関するビジネスモデルを見てきたわけですが、3つめは「オープンソース」、Web2.0のあらゆるものを支えている根幹です。

この場合のソースというのはプログラムのソースコードのことを指します。これを誰でも希望すれば見られるようにする、これが「オープンソース」です。そして、オープンソースにするということは、誰でもそのソースコードから実行ファイルなどを生成できるということ。

例えば、Windowsのソースコードは一部を除いては公開されていません。もしWindowsがすべてオープンソースであったとするならば、そのソースコードを使って無料のWindowsが作られ、誰でもそれを自由にダウンロードしてインストールすることができるようになります。しかしこうなるとマイクロソフトは儲かりません。

なのに、オープンソースはビジネスモデルであり、事実、成功している企業は存在します。なぜでしょう?
最初に、オープンソースのビジネスモデルは大雑把に2種類に分かれることを理解する必要があります。すなわち、オープンソースを使う側と作る側の2パターンです。まずは使う側の例。

・使う側:コスト削減
オープンソースは無償なので購入費用が不要で、使うだけでコストが削減できます。特に、社内で内部的に使い、ソフトウェアの配布を伴わない場合にはソースコードを改変しても公開する義務が生じないため、業務内容に合わせていくらでも自由にカスタマイズでき、しかも自分たちで行うならばカスタマイズのための外部費用は発生しません。以前の例でも説明してきたAmazonやGoogleがまさにその実例で、両社ともサービス提供の基盤となる内部システムにオープンソースを採用しており、年間数百万ドルを節約することに成功しています。

・使う側:開発時間の削減
オープンソースを採用するとコスト削減だけではなく、同時にゼロから開発するよりも開発時間が削減できます。例えばLinuxを携帯電話や家電製品などの組込用OSとして採用する動きが出てきています。これはコスト削減もさることながら、既にある程度の基礎となる開発ができているため、時間をかけずに製品化でき、さらに次の製品を作る場合にも同じシステムを流用することでさらなる時間短縮が可能になるという側面もあります。開発者の確保という面でも、既に存在するオープンソースであれば以前の職場や仕事経験がそのまますぐに実戦に生かせるため、教育期間やトレーニング期間が短く済むというメリットもあります。

次に、作る側の例。

・作る側:サポート提供
Red HatやJBossが提供するオープンソースは、成果物自体は無料で入手し、利用することも可能ですが、保守などのサポートは受けられません。別途、年間契約を結ぶことで保守してもらうことができ、サポートも受けることができる、というわけ。以下のリンク先を読むとよく分かります

Red Hat Enterprise Linux の購入について

@IT:Java 製品紹介:JBoss 3

また、上記の「使う側」でコスト削減や時間の削減を上げましたが、いくら削減できてもちゃんと動かなくては、あるいはサポートや保守がきっちりしていなくては商用としては厳しいです。そのため、こういうサポート一式を提供することで利益を得るというビジネスモデルが出てくるわけです。プラットフォーム自体は無料のオープンソースなので、利用者の下地を広げつつ、無料なので気軽に試すことも可能。つまり、敷居を下げることで将来の顧客をつかむ役割もオープンソースが果たしているわけです。

・作る側:デュアルライセンス
商用ライセンスと無償ライセンスに分けることによって、利益を確保する仕組みです。例えばMySQLというデータベースは無償で利用できますが、一方で商用のライセンスも存在しています。

MySQLライセンス / コマーシャルライセンス早わかり

以下のような差があります。

MySQL AB :: MySQL Network と MySQL Community Edition の比較

肝心の価格は以下のような感じです。

MySQL Online Shop: MySQL Support with MySQL Network

・作る側:基本機能は無料、拡張機能は有料
別の商用サービスや製品を組み合わせる、あるいはローエンド版は無料、ハイエンド版は有料というモデルです。具体的には「SugarCRM」というのがそのモデルを採用しています。ライセンスはGPLではなく、SUGARCRM PUBLIC LICENSEを採用することで拡張機能を切り分けて売っているわけです。

SugarCRM - SUGARCRM PUBLIC LICENSE

ソースコードに加えた変更は、再配布する場合に限ってオープンソースコミュニティにも流さなくてはならず、変更したコードを販売することはできない、という感じのライセンスです。つまり、これによってただ乗りによるライバルの出現を防いでいるわけです。

また、無料版でユーザーを確保し、さらなる機能を必要とする顧客にはその機能を販売するというビジネスモデルです。

有償版と無償版の違いについて

従来から存在するモデルである、「高機能のソフトウェアは値段が高くなる」というものと基本的な考え方は同じです。この場合、切り分けを明確に行うことでライセンスの問題やオープンソースの問題をクリアしていくのが肝心というわけです。

・コミュニティは利益を生み出すか
勘違いしやすいのは、コミュニティとの関連です。最初は個人の必要性から開発され、同じようなモノを求めている同種の人たちから利用され、開発コミュニティが形成されます。つまり初期では利用者と開発者がイコールなワケです。

ビジネスモデルとして成立するには、この初期利用者以外にどうやって広げていくかが鍵になります。なぜなら、初期利用者は開発コミュニティに加わることができるぐらいなので、無償版のオープンソースをいくらでも改造できるためです。つまり、顧客ではない。顧客は先に挙げたようにその機能だけ、あるいは時間の短縮のためにお金を払うわけです。

そう考えるとサポートすることがビジネスになるというのは必然。わからないことがあれば自力ですべて調べる人は少数派であり、大多数の結果だけを重視する人々に「マニュアル読め」は通じず、だからこそ丁寧なサポートがビジネスモデルとして成立するわけです。初期のオープンソース開発コミュニティがビジネスとして成功しにくかった理由はこのあたりにあると言われています。

また、オープンソースのコミュニティというと開発の側にばかり目が向きますが、使用する側のコミュニティも存在することを忘れてはいけないわけです。実際に使った側の意見を反映することによって、成果物の質が上昇していくわけです。

そのため、コミュニティの支持を得られないようなオープンソース、あるいはコミュニティが育たないオープンソースは、当然ながらビジネスモデルとしては破綻していると言えるわけです。

よくある間違った説明として「オープンソースのコミュニティは世界各地の様々な開発者によって支えられ、開発されている」というものがあります。実際にはビジネスモデルとして成立しているオープンソースの開発者は特定企業の社員や開発者であり、彼らが中心となって開発し、コミュニティはそれを支えてサポートしているという感じです。つまり、一昔前のように無償で働く世界中のボランティア開発者や研究者がよってたかって時間と技術を結集して作っているわけではない、というわけです。

例えば先に例として出した「JBoss」の場合、コミュニティに属する開発者は1000人以上ですが、ソースコードの90%はJBoss社内の50人の開発者によって書かれています。ビジネスモデルとしては、コンサルティングサービスやサポートによって収益を上げるというパターンです。

・オープンソースがビジネスモデルになるということの意味
このことについては、下記サイトの文章が最も的確にそのことを言い表しているので引用しておきます。

商用オープンソースの未来:ITExpress

「OSS、バイオ、ナノテク、Podcast、Webなどの新しい技術がトレンドとして確固たるものになるためには、商用化ということが不可欠であると思う。富を目的にしなかったOSSの初期のパイオニアたちには大変感謝しているが、商用化こそがそれらの技術を長期に渡って利用可能にするのだ。OSSがビジネス的に成り立たないことを立証することしかやりたがらないクローズドソースの大企業が複数存在する。結局、もしOSSに収益性がないなら、一過性の流行に終わり、消滅していくだろう。そうなったら、それらの大企業は口先だけのオープンソース化を止め、また元のやり方に戻っていくだろう。つまり、高価なサービス料金を払わないと誰も使えないようなくらい複雑なソフトウェアに高い値段がついている時代に逆戻りするのだ。」


なお、オープンソースをメインで扱っている「作る側」の企業で利益を上げているのは、現時点ではRedhatとMySQLの2社だけですが、非上場だともっといろいろあり、今後も増えると予想されています。

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in ソフトウェア,   ネットサービス,   コラム, Posted by darkhorse_log

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