コラム

「到底承服することができません」と断言するJASRACには自浄作用がないのか?


以前に「JASRACの独占禁止法違反認定か、公正取引委員会が排除措置命令へ」というニュースをお伝えしましたが、ついに公正取引委員会が正式に本日付で「社団法人日本音楽著作権協会に対する排除措置命令」を行いました。

ところが、対するJASRACは本日17時過ぎに公式サイト上にて「当協会は、2月27日付けで公正取引委員会から受けた排除措置命令について、事実認定及び法令適用の両面において誤ったものと考えており、到底承服することができませんので、法令の手続に従って審判を請求する方針です」と発表しました。


双方の主張する内容を読みましたが、どう解釈しても、JASRACの言っていることはおかしいです。おかしいどころか、「自浄作用がJASRACにはありません!」としか感じられない稚拙で幼稚な反論に終始しており、至極残念な内容になっています。

一体JASRACの何がおかしいのか、詳細は以下から。
まずは公正取引委員会が発表した内容を読んでみましょう。

社団法人日本音楽著作権協会に対する排除措置命令について(PDFファイル)

上記ファイル中にわかりやすく今回の違反内容が図解されており、以下のようになっています。


また、上記文書内で指摘されている違反行為の概要は以下のようになっています。

2 違反行為の概要

(1) JASRACは,放送事業者(注1)から包括徴収(放送等利用に係る管理楽曲全体について包括的に利用を許諾し,放送等使用料を包括的に算定し徴収する方法をいう。)の方法により徴収する放送等使用料の算定において,放送等利用割合(注2)が当該放送等使用料に反映されないような方法を採用している。これにより,当該放送事業者が他の管理事業者(注3)にも放送等使用料を支払う場合には,当該放送事業者が負担する放送等使用料の総額がその分だけ増加することとなる。

要するに、毎回都度申請するのではなく、「包括徴収」という方法によって「全売上のうちこれぐらい払ってくれれば細かい申請とかしなくても使い放題だよ!」という契約があり、これによってJASRAC以外の著作権管理事業者に対して不利益が発生しており、これはJASRACの音楽著作権における独占的地位を悪用したものである、というわけ。

このことは以下のように書かれています。

(2) これにより,JASRAC以外の管理事業者は,自らの放送等利用に係る管理楽曲が放送事業者の放送番組においてほとんど利用されず,また,放送等利用に係る管理楽曲として放送等利用が見込まれる音楽著作物をほとんど確保することができないことから,放送等利用に係る管理事業を営むことが困難となっている。

(3) 前記(1)の行為によって,JASRACは,他の管理事業者の事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,我が国における放送事業者に対する放送等利用に係る管理楽曲の利用許諾分野における競争を実質的に制限している。

これに対してJASRACは以下のように反論しています。

公正取引委員会に対する審判請求について

わかりやすく書いているのは以下の部分になります。

当協会は、現在の当協会の管理著作物に関する放送等使用料の徴収方法が独占禁止法上の私的独占に当たるとは考えておりません。また、今回の命令に対応するためには、これまで放送事業者との間で取組を進めてきた放送曲目の全曲報告が必要になるものと考えられますが、現時点ではすべての放送事業者が全曲報告をするまでには至っておりません。

また、以下のような主張も展開しています。しかし、どれもこれも的はずれでおかしいものばかりです。ド素人ならだませるのかもしれませんが、インターネット上では通じないでしょう。よほどJASRAC寄りの解釈をしない限り、擁護することすらできません。

1.当協会は反競争的な指示・要求などを一切していません。

一切指示や要求をしていなくても事実上そうなってしまっている以上、現状の仕組みを見直して、公平な競争が促進されるように努力するのは当然のはずです。今までそのような努力をせずに自分たちのことばかり考え続けて行動し続けてきたことそのものが問題になり、問われているのですが、そのことは棚に上げてしまっているようです。

2.今回の命令では、放送使用料の算定において具体的にどのような方法を採用すべきなのかが明確にされていません。

JASRACには自浄作用というものがないのでしょうか?とりあえずの案を出すことすら拒否する理由がわかりません。公正取引委員会から具体的な案を出されればおそらく今度は「実情にそぐわない」などと言って拒否することは目に見えています。要するにただの屁理屈です。自浄作用のなさが問われているのであって、そうでなければこれだけ執拗に各方面から非難されることはないはず。自分たちが今までどれだけ非常識なことを行い、時代の要請を無視し、音楽文化を破壊してきたかを振り返るべきでしょう。

3.今回の命令は、放送事業者の協力が得られない限り、当協会単独では実行不可能な内容です。

放送事業者の協力を得るようにして、正確な数値を把握すればよいだけの話なのに、それをしない理由がわかりません。事実、JASRAC自身が「仮に、放送事業者が放送番組で利用した音楽著作物の明細をすべて当協会に報告すること(放送曲目の全曲報告)ができるとすれば、放送番組において利用された音楽著作物の総数に占める当協会の管理著作物の割合を放送使用料に反映させることも不可能ではありません」と書いており、「現在、NHKや民放キー局を中心とした一部の放送事業者において既に実施され、残りの放送事業者においても実現に向けた取組が進められています」とあるので、これをそのまま続ければよいだけの話。そうであるにも関わらず、「関係者が自発的に努力を続けているさなかに、具体的方策も時間的猶予も明確にされないまま排除措置命令が出されました」というのはあまりにも都合がよすぎる話。まるでJASRACに協力しない民放が悪いとでも言いたいかのような内容です。自分たち以外に罪をなすりつけて恥ずかしくないのでしょうか?今までJASRACが他者に対しどのようなむちゃくちゃな理由で裁判を起こしてきたのか、それらの人々や団体、会社には具体的方策も時間的猶予も与えずにきたのか、そのことが今回の件でようやく骨身に染みてわかったのではないでしょうか。

4.当協会にお支払いただく使用料は、あくまでも当協会の管理著作物についての利用許諾の対価です。

「この契約における使用料の算定において、他の管理事業者の管理著作物の利用状況を把握したり、それを考慮したりすると、かえって公正かつ自由な競争に反することとなるおそれもあります」と書かれていますが、それをビジネスの世界では「市場原理」あるいは「競争」と呼ぶわけです。この資本主義社会においては当然のことをしてこなかったことがわからないのでしょうか?なぜ「独占禁止法」というものがあるのか、その根本的な意味すら理解していないのでしょうか?おそらくJASRACの中で今回の件を担当している人たちはわかっているはずです、自分たちがいかにして今までめちゃくちゃなことをしてきたのか、どれだけ非難されることをし続けてきたのか、どれだけ音楽文化を破壊して後進の芽を摘み、著作権に関するもろもろの歪みを生み出してきたのか。

今回の件ははっきり言って「自業自得」であり、この命令に基づいて「反省」し、今後の前向きな方策を提示するとともに、建設的な方向へ移行し、JASRACの評判を回復させる絶好の機会であったにもかかわらず、このような稚拙な反論を行い、自分たちの利益しか考えず、社会参加を無視して、己のエゴに満ちた主張だけをなおも繰り返すようであれば、JASRACに未来はないでしょう。

JASRACには一刻も早く目覚めてもらいたいと心から希望します。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
著作管理団体、活躍しすぎて罰金刑を受ける - GIGAZINE

フェアユースの方がコピーライトよりも経済的効果は大きい - GIGAZINE

著作権の非親告罪化やP2Pによる共有の違法化は誰が言い始めたのか? - GIGAZINE

総務省、著作権料を気にせず既存の映像や音楽を自由に加工できる空間をインターネット上に創設へ - GIGAZINE

ネット上にデータを保存するサービスはすべて著作権侵害で違法です - GIGAZINE

著作権侵害ファイルをダウンロードしていないのに金を払えと言われた - GIGAZINE

任天堂の著作権を侵害するとこのような「警告書」が送られてくるらしい - GIGAZINE

in コラム, Posted by darkhorse

You can read the machine translated English article here.